第23話「地属性魔法はカッコイイ」
「放課後になったよ、クロエ!!」
ミゲルは帰りのホームルームが終わり、フィアナが退出した直後、全速力でクロエの下に行った。
「う、うん」
その勢いにクロエも面食らう。
ミゲルはカイトを一蹴した転入生ということで、クラス内から注目されるようになったのだが、本人はまったく気づいていない。
「どっか広い場所に行こうか? じゃないと怒られるんだよね」
彼は一応彼なりに配慮できることを示した。
「そ、そうだね」
クロエは自分だって配慮してないわけでは──と言いかけたが、言葉を飲み込む。
結果的に迷惑をかけているのは事実だから、ではない。
ミゲルに言ってもどうせ適当に聞き流される気がしたからだ。
「とりあえず運動場に行こうよ」
クロエは無難な場所を提示する。
「そうだね」
ふたり連れ立って出ていく様子を、カイトは悔しそうに見ていた。
彼の視線など知る由もないふたりは広大な運動場へとやっていく。
「へえ、いろんな競技ができそうなくらい広いね」
とミゲルは感心する。
おそらくだが、サッカーとバスケを同時にできそうだった。
「うん、魔法競技もいくつかやることもあるみたいだよ」
とクロエは答える。
ミゲルの興味はそこで運動場から彼女の魔法に戻った。
「それで? 地属性魔法、どんな感じなの?」
ワクワクしているのを隠しきれていない質問に、クロエは苦笑する。
好奇心丸出しで見られるのは本来彼女は苦手だ。
だが、ミゲルはあまりにも純粋すぎる。
魔法を見て彼女をどうと評価するつもりがカケラもないことも理解できた。
(彼は違う……わたしをうんざりさせてきた人たちと)
という想いが彼のことを受け入れさせている。
むろん、ミゲル本人はまったく気づいていないだろう。
この場合はおそらく長所になるのだろうな、とクロエは思いながら魔法の詠唱をはじめる。
「《地の最果てで嘆くもの、命が還る寝床に座すもの、わが身に宿りて天を駆ける力を与えよ》【遊翔/フロート】」
彼女の呪文が完成するとその体は浮かび上がった。
だが、ほどなくしてふらつきはじめる。
「着地したら?」
ミゲルが声をあげると彼女は素直に従った。
「魔法は発動できるけど、安定はしない感じなんだね」
「そうそう。何がいけないんだと思う?」
彼の言葉にうなずき、クロエはすがるような視線を向ける。
「教師たちは土属性魔法をやれと言うばかりで、家族たちは鍛錬不足だと切り捨てるの」
「うーん……スカートで空を飛ぶのはまずくない?」
ミゲルは真顔で彼女のスカートを見つめながら言った。
「ちゃんとスパッツはいてるわよ、えっちね」
とクロエは真っ赤になりながらスカートの裾をなおす。
(スカートの下にスパッツ! ラブコメの王道!)
ミゲルは自分のオタク知識と一致する現象にハッスルしたが、彼女は勘違いして静かにあとずさりする。
「もっと超然とした人だと思っていたのに……」
とクロエは早くも後悔をはじめていた。
「うん? 魔法のことなら何となくわかるんだけど、言葉で説明するのは難しいな」
とミゲルは言う。
彼は自分の説明能力を信じていなかった。
オタクであるがゆえにドン引きされてしまうだけではないか、という不安すら持っている。
他の点ならいざ知らず、こういう点だけは比較的客観視できるのだ。
「俺も使ってみてもいい?」
「えっ?」
ミゲルは突然何を言い出すのかと、クロエはあっけにとられる。
「自分でもやってみたら、説明する言葉が見つかるかもしれないと思って」
と彼は主張した。
「まあ別にいいけど……うちのオリジナル魔法ってわけじゃないし」
クロエはあっさりと許可を出す。
一族の秘伝だったらおいそれと認められなかったが、【浮翔/フロート】はレアなだけで一般化されている。
「やったぜ! ありがとう!!」
ミゲルは大いに喜び、その場で飛び跳ねた。
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