第21話「ライネ・アロサール」
「カイト、お前の完敗だな。実戦だったら先ほどの魔法で即死だったぞ」
リングに上がってきたライネが言う。
「うぐ……」
「それにしてもカイトの魔法を二度食らってもライフが割れず、七位階一撃で倒してしまうとは、相当な力の差がないとありえない展開だ」
とライネはじっとミゲルを金色の瞳で見つめる。
「愚弟は馬鹿で素行が悪くてEクラスに落とされたが、魔法の基礎戦闘力だけならBクラスくらいはあるはずなんだが」
水色のショートヘアの美少女に見つめられたミゲルは、
「じゃああなたも魔法勝負してみます?」
と提案した。
ミゲルは恋愛回路が死滅しているのか、離れた位置から美少女に見つめられた程度ではドギマギしない。
「ダメー! 相手は四年、それもAクラスの先輩だよ!?」
ライネが答えるよりも早くクロエが制止する。
「そうね。おススメはできないわ」
フィアナもやんわりと止めた。
「ふっ、なかなか面白いやつだな」
ライネはお腹を抱えて笑い出す。
「お、俺に勝ったくらいで調子に乗んな。姉ちゃんははるかに強いぞ。ぐっ」
再び怒りを見せたカイトの頭に、彼女は勢いよく拳骨を振り落とした。
「このミゲルはわたしに勝てると思いあがってるわけじゃない。純粋にどんな魔法を使うのか知りたいという好奇心しかない。お前みたいな男がいるなんてな」
ライネはミゲルに向かって優しく微笑む。
「さすがに勝負を受けるわけにはいかないが、愚弟の話だとお前はたしか転入生だったな? 転入祝いと愚弟の詫びにひとつ、わたしの得意魔法を見せよう」
「え、まじで? ありがとう! なんて優しい人なんだ!」
単純な彼は大いに喜び、その場で小躍りをする。
「つくづく愉快なやつ」
ライネは好意のこもった笑い声を立てたあと、笑みを引っ込めて注意した。
「だが、わたしは気にしないが同胞には人とひとくくりにされると怒るやつもいる。気をつけることだ」
「あ、ごめんなさい」
ミゲルが申し訳ないと謝ると、
「素直でよろしい。愚弟も見習ってほしいものだ」
彼女は笑顔で受け入れる。
「ではいくぞ。わが魔法を見届けろ」
彼女は張り切って言うと、誰もいない上空を見上げて詠唱をはじめた。
「《はるかなる大海に座すもの、大地に恵みと災いをもたらすもの、わが手足となって荒ぶる威を示せ。大いなる激流となって敵を滅ぼせ》【激流葬/メイルシュトローム】」
ライネの口から鉄砲水が生まれ、渦巻きながら上空へと消えていく。
「水属性の四位階魔法!」
クロエが目を大きく見開き、悲鳴に近いうめきを漏らす。
「さすが四年でも一、二を争う実力者。見事な魔法です」
対照的にフィアナは冷静にライネを褒める。
「そう言えば名乗ってなかったな? ライネ・アロサール、四年Aクラスだ」
「ミゲル・ボロン、一年Eクラスです」
名乗り合うシーンってけっこうカッコイイよなと思いながらミゲルは答えた。
「実力だけならキミはAクラスだろうな。実力以外の部分で落とされるのがこのアカデミーだが」
とライネは言って自分の弟とクロエを順番に見る。
「そこのクロエ・キャンベルも土属性ならAクラスに入れるという評判だったはずだが」
「えっ、クロエってそんなにすごいの!?」
ミゲルは彼女が明かした意外な情報に食いつく。
「ちょ!? アロサール先輩、どうしてばらすんですか!? そもそもどうしてご存じなんですか!?」
慌てたのはクロエだ。
フィアナが黙っていてくれた事情を、まさか知り合ったばかりの上級生にばらされるとは。
「クロエってそんなにすごいの?」
ミゲルはあきらめずに再度彼女に聞く。
「土属性魔法でAクラスに入れたのは事実だけどね……」
こうなったら何が何でも彼女が答えないと、彼は引き下がらないとすでに理解したクロエはあきらめて言う。
呆然としているのはカイトで、彼女のことを何も知らなかったのだ。
「完全な道化だな、愚弟」
ライネがとどめの一言を放つ。
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