第20話「思ってたのと違った」

「メイン立会人はわたしがやるわよ?」


 とフィアナがライネに言う。


「もちろんです」


 ライネは当然だとうなずいて、さっさとリングを降りてしまう。


 ミゲルがリングにあがり、クロエが彼女の反対側の位置に移動したところで、フィアナが口を開く。


「ミゲルくんは知らないだろうから、ルールを説明するわね。魔法決闘マジックコンバットは魔法のみを使った決闘で、それ以外を使えば即反則負けよ」


「当然ですね」


 魔法使い同士のバトルなんだからとミゲルは納得する。


「次にこれをつけて」


 とフィアナが銀色の腕輪をふたりに差し出す。


「これはライフリングというの。三つの赤い星があるでしょう? これがライフポイントで、一定のダメージを受けたら消えるの。三つの赤い星を先に消したほうが勝ち」


 と彼女は言う。


「わかりやすいですね」


 複雑なルールだと覚えられる自信がなかったミゲルは安心する。


 ふたりがライフリングを左腕につけると、それぞれの背後に名前と三つの赤い星が表示された。


「すごい技術だ」


 魔法と言うよりは科学っぽい現象だなとミゲルは目を輝かす。


「へ、どしろーとの田舎者が」


 彼の様子を見たカイトは鼻で笑って見下し、ライネがそっとため息をつく。


「ではお互いかまえて」


 フィアナに言われて、かまえるって何だろうとミゲルは首をひねる。


「へ、杖なしじゃ戦えねえのかよ」


 カイトは嘲笑して右手を彼に突き出す。


「《空を駆けるもの、荒ぶる力をふるえ、【風斧/エアロアックス】」


 彼の体内で魔力が高まり、右手から風の斧が生み出されて、ミゲルに飛んでくる。


「おおー! そんな魔法が」


 ミゲルは初めて見る魔法に目が釘付けになり、避けることもせずまともに被弾してしまった。


 フィアナとライネはきょとんとしたし、クロエは「バカ」とつぶやく。

 クロエだけは彼がなぜ避けなかったのか、理由を予想できたのだ。


「今のでライフが割れねえなんて、なかなかの魔力の持ち主らしいな」


 カイトからバカにする雰囲気が消失する。


 魔法のダメージを軽減する方法はいくつかある。

 保有する魔力で抵抗するか、防具やアイテムをそろえるかだ。


 ミゲルはもちろんまともな装備をしていないので、保有魔力で打ち消したと推測できる。


「だが、連続して撃てば抵抗できねえだろう! 《空を駆けるもの、荒ぶる力をふるえ! 【風斧/エアロアックス】」


 カイトが再び風の魔法で攻撃して命中したが、やっぱりミゲルのライフは割れなかった。


「……もしかして他の魔法は使えないのか?」


 ミゲルは不思議そうに蜥蜴人に問いかける。


「お、俺の最強の六位階を、二発も食らってライフが割れないなんて、お前の魔力量はいったい?」


 カイトはショックのあまり体を震わせ、彼には答えなかった。


「もしかして他に俺が見たい魔法、使えないのか?」


 ミゲルは一回無視されてもめげずに再度たずねる。

 カイトにしてみれば無神経なあおりにしか聞こえない。


「う、うるせえ! 《空を駆けるもの、」


「もういいか。《影にひそむもの、夜道を駆けるもの、わが刃となって敵を討て》【闇刃/シャドウエッジ】」


「荒ぶる……え?」


 ミゲルはあとから唱えて一瞬でカイトの詠唱を追い越し、【闇刃/シャドウエッジ】の魔法を発動させる。


「速い!?」


 クロエ、フィアナ、ライネの三人がその速さに驚愕した。

 闇の刃はカイトが避けられない速度で飛来し、彼の体を一気に刻む。


 次の瞬間、カイトのライフが三つとも割れてしまう。

 

「……もう終わり? 何か思ってたのと違うなぁ。もっと手に汗をにぎる魔法バトルになるのかと思ったんだけど」


 ミゲルはこの結末に納得がいかないと不満をこぼす。


「何なの、いまの詠唱速度……」


 クロエは呆然とする。


「見たことないわ」


 フィアナも目を丸くしていた。

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