第12話「土属性と地属性は違うって、何かカッコイイ」
「じゃあよろしく」
と言ってフィアナは立ち去る。
「先生、本当は忙しいはずだからね」
クロエは彼女を擁護するような説明をしたあと、勢いよく食いつく。
「ねえねえ! 聞いてもいい? さっきあなた魔法使ったのよね?」
「うん、まあね」
ミゲルは鼻が触れ合いそうな距離まで顔を近づけられ、たじろぎながらも返事をする。
「どんな魔法なの? 先生がスルーしちゃったから、聞くタイミングがわからなくて」
「ああ」
フィアナのあの空気が近くにあれば、わからなくもないとミゲルは思う。
「風の五位階魔法【風緩衝/エアロクッション】だよ。先生は俺が五位階を使えるって知ってるから、驚かなかったんじゃないかな」
隠す必要も感じないので彼は教える。
「五位階かぁ! わたしいま練習中なのよね! すでに使いこなせるなんて、ミゲルくんはすごいなあ」
とクロエは感心した。
驚きや尊敬も含まれているが、羨望が一番大きい。
ミゲルは興味を持って彼女に聞く。
「さっきの飛んでた魔法?」
「そうだよ! なかなか上手くいかないけどね」
クロエは元気よく答える。
「俺が家で見た魔法書の中で、空を飛べる五位階魔法ってなかったんだけど」
彼が聞きたいのはこの点だった。
父が持っていないだけなのか、クロエが特別なのか、とても気になって仕方がない。
「ああ。属性の問題じゃないかな」
クロエはちょっと考えながら答える。
「わたしがやってるのは地属性と言って、重力を操作するタイプなの。地属性はレアだから、持ってない家のほうが多いと思うよ」
「地属性? 土属性と何が違うの?」
初耳の属性を知らされたミゲルは、ぐいっと距離を詰めて聞いた。
距離感が近い美少女にドキドキしていた奥手な少年、という一面は完全に消えている。
この変貌に驚きながらもクロエは答えてくれた。
「使い手がレアであつかいも難しい重力とかをわけてるだけで、本来はあんまり意味ないってわたしの祖父は言ってたかなあ」
同時に苦笑する。
「そうなんだね。まあレアであつかいが難しいなら、区別するのもいいんじゃないかな?」
とミゲルは自分の意見を言う。
そのほうがカッコイイからとは言わなかったのは、重力魔法に意識が向いているからだ。
「そう? ミゲルくんって柔軟なんだね」
クロエは意外だったらしく目を丸くする。
「そう言えばおじいちゃんは魔法を使うのは、柔軟な思考も大切になるって言ってたなぁ……何言ってるんだろうと思ったけど、ミゲルくん見るかぎり正しいのかな」
と小声で言って何やら納得していた。
そしてハッとして手を叩く。
「ごめん。それじゃあ寮に案内するね」
「うん、ありがとう」
ミゲルが本当に礼を言いたかったのは地属性を教えくれたほうだったが、いい機会だと二回分をまとめて言った。
「いいのよ。もしかしたら魔法の助言をもらえるかもだし」
クロエはにこりと笑う。
「魔法を見せてもらえるなら、何か言えるかもしれないよ」
ミゲルは自分の知らない魔法を見たい一心で適当なことを言った。
「え、いいの?」
クロエはまたたきを二度して彼をじっと見つめる。
「いいよ。助言が上手くできるか、自信はないけど」
ミゲルはとってつけたように言った。
「大丈夫だよ」
クロエはからからと笑い、そして何かに気づいて舌を出す。
「ごめん、ついつい魔法の話をしちゃって」
「別にいいけど?」
ミゲルは首をかしげる。
「ほら、寮への案内!」
「ああ」
一応覚えているクロエに対して、彼のほうは素で忘れかけていた。
「ミゲルくんってわたし以上に魔法フリークだね……そりゃ編入できるわけだよ」
彼女はあきれながら彼の手をとって、寮がある方向へと歩き出す。
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