第10話「国立魔法アカデミー」
「まさかあっという間に王都に来るなんて」
さすがのミゲルも事態の速さに驚きを隠せない。
彼はいま、ラーンに連れられて王都に到着したところだった。
テストに合格してからわずか数日後である。
「才能を育てるのは早いほうがいいというのが、初代魔法アカデミー総長の方針でね。いまでも受け継がれているのだ」
彼の隣に立つラーンは説明した。
「魔法をたくさん学べるんですね! ワクワクします!」
ミゲルが目を輝かすとラーンはうなずいたが、
(魔法のことしか見えてないか。すこし危ういな)
と懸念する。
彼くらいの年頃では初めて親元を離れての暮らしことに、不安を抱く者は珍しくないのだ。
ホームシックになられても困るが、ここまで動揺しないのも人として何かが欠落しているように思う。
「話はすでに通っている。まずはアカデミーの教師たちにあいさつし、それから寮へ案内してもらいなさい」
とラーンは言って門をくぐる。
彼の顔は城門の守備兵も知っているらしく、敬礼とともにふたりを見送った。
「私たちが行くのは南地区だ。簡単な位置関係はなるべく早く覚えるように」
「はい」
ミゲルは素直に返事をするが、地理や方向はあまり得意ではない。
(アカデミーから出ない暮らしなら、問題ないかな?)
と思う。
ラーンに連れられた着いた魔法アカデミーは、屋根が赤色で統一された立派な黒いレンガ造りの建物だった。
「左側が寮、右側が校舎だ」
とラーンが言いながら門をくぐると、そこにはふたりの男女が立っている。
「ラーン導師、さすが時間どおりですな」
壮年の男性がにこやかに両手を広げた。
「そちらの少年がミゲル・ボロンくんですか?」
金髪の若い女性が興味深そうにミゲルを見る。
「ああ」
「初めまして、ミゲル・ボロンです。魔法をたくさん学びたくて、やってきました!」
と彼は元気よくふたりにあいさつした。
「それは感心だな」
「楽しみな子ですね」
ふたりは微笑ましく受け止める。
彼らにとってミゲルの第一印象はよかった。
「ではワシはここで失礼する」
とラーンは言って踵を返す。
「ありがとうござました」
ミゲルは立ち去る彼に礼を言う。
「はげむといい」
ラーンはふり向かず言葉だけ残した。
「じゃああとは君に任せるとしようか、フィアナくん」
「はい」
壮年の教師も建物の中へと戻り、フィアナと呼ばれた女性とミゲルだけになる。
「じゃあ名乗らせてもらうわね。わたしはフィアナ。あなたが編入する一年Eクラスの担任なの」
女性はにこりと微笑む。
「よろしくお願いします」
あいさつが面倒になってきたなと思いはじめたミゲルだったが、今日は最初だからと我慢する。
「今日は寮へ案内するわね。明日は八時二十分に寮の前にいてくれると、迎えに行くわ」
「ありがとうございます」
とミゲルは反射的に言ったが、意外だなという気持ちが強い。
(最高峰のアカデミーのわりに手厚いんだな。……最高峰だから親切なのか? ということは魔法についても親切なのか!?)
彼は突然かつ勝手に期待値をあげてしまう。
「じゃあこっちよ」
フィアナに先導されるままに歩いていると、不意に悲鳴のような声が耳に届く。
「どいてどいてどいてー!」
ミゲルが声のほうを見上げると、ひとりの少女が彼に突っ込んでくる。
「危ない!?」
フィアナも金切り声をあげるが、とっさに動けない。
「《空を駆けるもの、ここに集いて、我が身を守りたまえ》【風緩壁/エアロクッション】」
ミゲルは何やら既視感がある展開だなと思いながら、自分の前に風のクッションを作り出して少女を受け止めようとする。
だが、勢いがありすぎて完全には止められず、ふたりはもつれあって地面に転がってしまった。
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