第3話「魔法を唱えてみる」

「《影にひそむもの、夜道を駆けるもの、わが刃となって敵を討て》【闇刃/シャドウエッジ】」


 ミゲルは言われたように空に向かって右手をかざす。

 魔力が消費されて右手から黒い刃が生み出され、空へと発射されて消えた。


「やった! やった! 成功だ!」


 彼はその場でぴょんぴょん跳ね回って歓喜にひたる。


「いやー、まさかいきなり成功するなんて! 千回くらいは失敗するかなって思っていたのに!」


 興奮で彼の頬は紅潮していたが、やがてハッとした。


「一回の成功で喜んだらダメだぞ。使いたい魔法は他にもいっぱいあるんだから」


 と自分に言い聞かせ、表情を引き締めて魔法の練習を再開する。


「えーっと今のは闇の七位階だったから、次は光の七位階を試してみるか」


 彼は独り言を言って頭を整理した。

 七位階は最もランクが低く習得もしやすいとされている。


「やっぱり低ランクから順番に練習していくべきなんだろうし」


 と言ってからきりっとした顔で彼は空を見た。


「《朝日とともにこぼれるもの、鳥とともに空を舞うもの、わが力となって敵を刺せ》【薄明棘/ディムレイ】」


 きらきらと輝く光の短剣二本が、彼の右手から放たれて空に消えていく。


「おおお! また一発で成功だ! すごい!」


 彼は再び大はしゃぎする。

 

「ふー」


 しばらく飛び跳ねたあと、冷静になって自分の体を確認した。


「魔力が足りなくなってくると疲れるらしいけど、いまのとこそんな気配はないよな?」


 両手、腹部、両足の順に視線を走らせる。

 意味があるのかはわからないが、そうしたい気分なのだ。


「じゃあ次は風の属性をやってみようっと!」


 ミゲルはすぐに気持ちを切り替える。

 問題がないならそのまま突っ走ればいい。

 

「《花と歌うもの、木とともに笑うもの、わが剣となって敵を刻め》【風歌剣/エアロブレード】」


 彼の右手から風の刃が空に放たれる。


「三つの属性が全部成功するなんて幸先がいいな! きっと一番ランクが低い七位階だからだろうな!」


 彼は深く考えず、調子がいいことを無邪気に喜ぶ。


「次はどうするかな……七位階を中心に覚えるのがいいのか、それとも六位階に挑戦してみるのがいいのか?」


 だがすぐに悩みだす。


 まさか全部一回のチャレンジで成功するとは思っていなかったので、このあとの計画を練っていなかったのだ。


「とりあえず六位階に挑戦してみようかな。どこまでできるのか、全然わかっていないんだから」


 とミゲルは決断する。

 ランクが上がれば習得難易度はあがるはずだ。


 なら練習をはじめるのは早いほうがいい。


「《夜の帳をおろすもの、星の光とともに現れるもの、ここに集いてわが力となれ。漆黒の獣となってわが敵を狩れ》」【夜獣牙/ノワールファング】」


 彼がかざした両手から黒い牙状の魔法が、空へ向けて発射される。


「おおお!? また一発で成功!? 俺ってもしかして、闇適性かなり高いのかな!?」


 彼は再び大興奮でぴょんぴょん飛び跳ねた。

 落ち着くと自分なりに考察する。


「となると、他属性の六級魔法を一回で覚えられる可能性だってあるんじゃないか? これまでのパターン的に」


 そして彼は可能性に気づいた。


「もちろん闇属性だけってこともあるんだろうけど、試してみたいよな。覚えたらラッキーなんだから」


 ワクワクが止まらないどころか加速する。

 そんな笑みを浮かべながら彼は次の詠唱をはじめた。


「《喜びを表すもの。笑顔とともにあるもの。この地に降りてわが手に宿れ。傷をいやす光となれ》【薄癒光/ヒーリング】」


 彼の右手が青く光る。

 光属性の六位階の治癒魔法が発動した証だった。


「よし、治療魔法も使えるみたいだな。……使ってみたかったんだよなあ!」


 ミゲルは今度はひかえめな反応だったが、うれしさよりも感動が勝ったせいだった。


 アニメや漫画で見かけていた治療魔法が自分にも使えたことは、言葉では表現しづらいものがある。

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