第2話「魔法みたいな科学があるなら、科学みたいな魔法もあり」

「これを使う」


「それは?」


 その紙は何だろうと思ってミゲルが父に聞く。


「これはなカラーズシートといってな。魔力を流せば、そいつの得意属性に応じて紙の色が変わる便利なアイテムなんだ」


「そうなんだ」


 説明を聞いたミゲルは、まるでリトマス試験紙みたいだなと思う。


(発展した科学は魔法みたいって言うくらいだから、発展した魔法が科学みたいでもいいよな!)


 と彼はポジティブに考え自分を励ます。


「じゃあさっそくやってみたいな」


 紙を右手で受け取ってミゲルは魔力を流してみる。

 するとみるみるうちに色が変わっていく。


「あれ? 上が黒、右が緑、下が金色?」


 どういうことだろうと彼は首をひねる。


「お前、かなり珍しい適性を持っているんだな」


 父はしげしげと変色した紙を見つめた。


「おれの適性って何なの?」


「黒は闇、緑は風、金色は光だ」


 ミゲルの問いに父は視線を紙に固定させたまま答える。


「おお、すごそう!」


 魔法オタクの彼としては特に闇属性がうれしい。


 光も風ももちろんカッコイイ、何なら属性すべてがカッコイイという気持ちだってあるのだが。


 彼の反応を見て父は深々とため息をつく。


「風はともかく、他の二つはくせが強くて覚えるのが大変な属性と言われているんだぞ?」


「やりがいがあるよ!!」


 ミゲルは父の不安を吹き飛ばすように満面の笑みで答える。


 言うまでもなく光、闇、風の三属性を覚えたいという彼の欲求が、表情に出ただけだ。


「そ、そうか。まあ頑張るといい」


 父はわが子のポジティブさに若干たじろぎながらも、特に何も言わず自由にさせることを選ぶ。


「じゃあ父さんは仕事に戻るからな」


 と言い残して部屋を出たので、彼だけが残される。


「全属性に適性があるのが理想だったけど、さすがに無理だったかあ。まあいいや。覚えることはいっぱいあるんだから、まずは適性順にやろう」


 適性がないからあきらめるという発想がないミゲルだったが、まずは目先のことに集中しようと決めた。


「じゃあとりあえず三属性、覚えられるだけ覚えてみよう」


 彼は呪文は覚えても魔法が発動するとはかぎらない──この世界の常識を無視している。


 覚えて試してみてから考えればいいと思うからだ。

 彼の父の書斎には六属性がそろっているのはすばらしい。


 さっきの本の続きをまた床に座って読みはじめる。



「よし、覚えたぞ。三属性八ずつ、二十四」


 ミゲルは満足して立ち上がり、読んでいた本をもとの位置に戻す。


「こっちの世界の呪文のほうが短くて覚えやすいな。今のところは」


 と言った彼の表情は充実感であふれている。


 彼にとって呪文に優劣はなくすべてがカッコいいのだが、自分が使うなら覚えやすいほうがいいかもしれない。


 そんな気持ちがほんのすこしだけある。


「家の中で使うのは……まずいよなあ」


 とミゲルは書斎の中を見回してつぶやく。


 いきなり魔法の発動に成功すると思うほどうぬぼれていないが、どれだけ練習すれば会得できるのか、さっぱり見当がつかない。


 だったら魔法の練習をできる場所がいいだろうと思い、書斎を出て台所で裁縫をしている母に相談する。


「母さん、魔法の練習がやりたいんだけど」


「家の庭でしたら? 狭いけど、空に向かってうつなら何とかなるでしょ」


 母は手を向けて助言をくれた。


「あ、そうか。ありがとう。行ってくる」


「夕飯ができたら帰ってくるのよ」


 とだけ言って母は内職を再開する。


「はあい」


 家の庭なのになとミゲルは思ったが、六歳なら仕方ないかと苦笑した。

 外に出てみるとたしかに狭い庭がある。


(キャッチボールができればいいな、程度だよなあ)


 彼の脳に入っている知識によればわりと交通の便がいい土地なだけあり、なかなか高いようだ。


 両親は平民だがふたりとも魔法使いということはあって、平民としては裕福な部類に入るのかもしれない。

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