第1話「やっぱり呪文はカッコイイ」

「父さん、おれもっと魔法の勉強がしたい!」


 とミゲルは朝食の時に頼み込む。

 彼にとって都合がいいのは両親ともに魔法使いだという点だ。


「いいぞ。父さんの跡を継ぎたいってことだな!?」


 つまり他の職業の親よりも理解があるし、環境も悪くない。


「え、うん、まあ」


 ミゲルはきょとんとしたが、否定して機嫌を損ねたら面倒だとすばやく計算して、とりあえずは肯定しておく。


 魔法が絡んだときは頭の回転が速くなるようだった。


「どうせなら自分を超えて行けと言えないのかしら」


 ミゲルの母がぼそっと言うが、男たちには聞こえなかった。


「いろいろ魔法の本を読みたいんだけど」


 とミゲルは本命の頼みを父にする。


「おおう? 呪文を学びたいのは感心だが、大事なのは実際に練習することだぞ?」


 父親は反対こそしなかったが、ふしぎそうに首をひねった。


「覚えてからでも練習は遅くないかなって」


 とミゲルは答える。

 彼にとって魔法の呪文を覚えることは大切だが、すべてではない。

 

 どうせなら使いこなすところまでやりたかった。

 だから父の言う練習も欠かすつもりはない。


「そりゃまあ……」


「まずはやりたいことをやらせてあげたら? あれもダメ、これもダメだとよくないんじゃない?」


 言いよどむ父に母が口を出す。


「そうだな。まずはやりたいことをやらせてみるか」


 父はうなずいて認める。


「母さんのほうが強いね」


 ミゲルはぼそっとつぶやき、耳ざとく拾った母はにこりと微笑む。


「父さんが持っているものを読んで、足りなかったら母さんのところに来なさい。

父さんが持ってない本も持っているから」


 彼女の言葉はいまのミゲルにとって最高に気が利いている。


「わぁい! ありがとう母さん! 大好き!」


 青い目を輝かせて礼を言う息子を、両親は愛情のこもった笑顔を向けた。


 食事をすませたミゲルはまず父の書斎に行く。

 そして絶望する。


「高いところにあるものはとれないな」


 六歳児にすぎない彼には手が届かい範囲が広すぎた。


「まあいい。手の届くものから順番に読んでいこう」


 とつぶやき、手近なものをまず手に取る。

 魔法の本はいまの彼でも理解できる優しい言葉で書いてあった。


「おおー、やっぱり呪文はカッコイイなあ!」

 

 書斎の床に座り込んで読みながらミゲルは感嘆する。


 彼にとってすべての呪文はカッコよく感じられるものだったし、本人も自覚はしていた。


「がんばっておぼえよう。空をたゆたい遊ぶ妖精。自由を求める鳥」


 ぶつぶつと口の中で言ってみる。

 一度は声に出してみるのが彼の記憶方法だった。


「ふむふむ」


 いくつかやったところで彼の父が部屋にやってくる。


「おー、やっているな。区切りがついたら属性チェックをやろう」


「属性チェック?」


 ミゲルは前世の知識を引っ張り出し、あれこれ想像していると父が笑う。


「おう。どうせなら得意属性を磨いたほうがいいからな。それだけでいいってわけじゃないが、まあ基本だ」


「ふうん」


 得意な属性を磨くのは基本という理屈は、ミゲルにもわかりやすい。


「じゃあさっそく試してみたいな」


 自分の属性を知ることは大事だと彼は判断して立ち上がる。


(どうせならまずは得意な属性から覚えたほうがいいもんな!!)


 という気持ちが彼を動かしていた。


「え、本を読んだあとからでもかまわんぞ。どうせすぐには覚えられないだろうし」


「え、先に知りたいよ! ダメなの?」


 ミゲルは童心にかえって困惑する父におねだりする。


「ダメじゃないが……まあいいか。どうせ通る道なんだから」


 父は気を取り直して許可をくれた。


「どうやって属性をチェックするの?」


「ああ、専用のアイテムを使うんだ。ちょっと待っていろ」


 父は答えると書斎の机から白い紙を取り出す。

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