第一章 〜逢坂花恋と二人きりの休日〜
第6話 迫るGW
カチカチ、と軽快にコントローラーを操作する。画面の中には向かい合う二人のキャラクター。拳を放ち、また剣を振るったり。
つまりは戦闘しているわけなのだが。
「……ギャルゲーにバトル要素は必要ないだろ」
この要素は絶対邪魔になっている。
アマゾンのレビューとか見たら同じようなことを思っている人が大半を占めているに違いない。
「……」
「……」
布団に寝転がりながらゲームをしていた俺はふと視線を上げる。布団のすぐ横にはドアがあり、そこが開いたのだ。
「ご飯できましたよ?」
花恋ちゃんだった。
大きめの薄いパーカーとミニスカートというのがお気に入りの部屋着らしい。
女の子だけの生活だったので気にしてないんだろうけど、俺が居候しているということを思い出してほしい。ミニスカートで目の前をうろうろされると気になってしまう。
現に今だって見上げる俺からはばっちりフリルのついた薄いピンクのパンツが見えているわけで。
「どうかしました?」
そんな光景に、思わずフリーズしていた俺を怪訝そうな目で見てくる。気にしてねえんだろうなあ。
「いや、何でもない」
ゲームをスリープモードにして立ち上がる。
そして、花恋ちゃんと一緒にリビングへと向かった。
「悠一さんっていつもゲームしてるよね」
「いつもはしてないけど」
「あたしが晩ご飯で呼びに行くといつもしてますけど?」
「タイミングの問題なんだよ。ちょうどこの時間はそういう時間なだけ」
「面白い? クラスの男の子達もよくお話してるけど」
「人によると思うよ。女の子がしても面白くないかもね」
言うと、花恋ちゃんはふうん、と興味があるのかないのかよく分からない返事をしてくる。
リビングに行くまでのほんの僅かな雑談だ、これくらいがいい。
「いただきます」
リビングに四人が集う。
俺の横に花恋ちゃん、前に深雪さんで、その横に紗月。これが今となっては定着した座席だ。
今日の晩ご飯はハンバーグ。とろっと半熟の目玉焼きが乗せられている。食欲をそそるいいにおいがリビング内に広がっている。
「あ、そうだ」
そんなとき、紗月が思い出したように呟いた。
「どうしたの?」
「来月の二日から友達と一泊の旅行に行くことになりました」
「二日?」
紗月の言葉に深雪さんは眉をしかめる。
来月は五月。その初週といえばゴールデンウィークが待っている。学校は休み、学生にとっては春休みを終え夏休みが訪れるまでにある僅かな休息のイベントだ。
まあ、宿題とかあって結局勉強からは逃げられないんだけど。
「どうしたの?」
俺が聞くと深雪さんはハッとしてスマホを確認する。
「えっとね、実は私もその日から一泊で勉強合宿に行くことになっているの」
「勉強合宿?」
「うん。学校主催でね、二年生と三年生を対象に行われるの。自由参加なんだけど、参加してみようかなと思って」
深雪さんは高校二年生。受験生ではないのにそんなイベントに参加するなんて、どんだけ真面目なんだ。
「勉強は大事ですからね」
「うん。でも、そうなると……」
言いながら深雪さんは俺と花恋ちゃんの顔を交互に見る。
何も言葉は出てきていないが言いたいことは予想できる。いろんな意味で心配なのだろう。
二人が出ていくということはこの家に残るのが俺と花恋ちゃんだけということ。それに、一泊とくればそりゃ心配もするよな。
「やっぱり私、今回はやめとこうかなあ」
深雪さんが悩んでいる。しかし、今回俺からは何も言えない。
彼女の心配の種が二人で大丈夫かというものならいいが、二人きりにした瞬間に俺が襲ったりしないか、のような花恋ちゃんの貞操の心配をしている場合、俺が「大丈夫、問題ないっす」とか言っても何の意味もないからな。
俺がそんなことを考えていると、よこの花恋ちゃんが持っていたお箸を置く。
「大丈夫! 何の問題もないから行ってきなよ!」
本当に何の問題もないと思っているのだろう、屈託のない笑顔で花恋ちゃんは言う。
「で、でも」
「お勉強は大事だよ。せっかくそんなイベントがあるんなら行くべきだよ! それに、悠一さんだっているんだから、大丈夫だって! ねっ?」
俺に振るのか……。
ま、ここで動揺とかする方が怪しいしな。それに下心とか全くこれっぽっちもないんだから、何も後ろめたくなんかないはずだ。
「そうですね。せっかくの機会だし、行ってきたらどうですか?」
俺が言うと、深雪さんはううんと唸る。
これだけ悩むということはそのイベントも気になっているのだろう。
ただ、この家では母親的なポジションの深雪さん的には家を空けることを躊躇っている感じか。
「何なら花恋ちゃんもお友達の家に遊びに行ったらどうだ?」
「嫌です」
即答だった。
実は友達いないとか? いやいや、そんなことはないだろう。少なくとも男共はこんな可愛い子を見逃しはしなさそう。
「……うん、じゃあ今回は悠一くんに任せようかな。花恋ちゃんをよろしくね」
「ええ」
「わたし的には、あなたが家にいることが心配なのですが」
相変わらず当たりがキツイぜ。
まあ信頼も信用も皆無だろうからそう思われるのも無理はないけれど。
「花恋。その人をしっかりと見張っていてくださいね。女子エリアに入ろうものならあれを使って構いません」
「……一応聞くけどあれって?」
「知る必要はないです。対策をされても困りますから」
「ますます気になるな」
「一つだけ言うと、あなた程度の相手ならば確実に気絶させられます」
「ほんとに何なんだ!?」
そんな感じで、俺はゴールデンウィークに花恋ちゃんと二人で過ごすことになった。
不安だ。
「よろしくおねがいしますね、悠一さん」
小悪魔のような笑顔を浮かべて、花恋ちゃんはしししと笑うのだった。
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