第7話 昼休みは友人と


「おう悠一、昼飯はどうするよ?」


 四時間目の授業を終えて、学生待望の昼休みがやってきた。チャイムが鳴ると、教室の中は騒がしさを取り戻し各々が好きに移動していく。

 その中で俺の席の前までやってきたのは鳴子翔助だ。


「お前はどうすんの?」


「実は今日は飯の用意がなくてな。学食か購買に行こうと思ってんだよ。つーわけで付き合ってくれ」


 にっと人懐っこい笑みを見せて翔助は言ってくる。何となくだけどこいつを動物で例えるなら猫だな。


「俺も用意してないからちょうどいいや」


「そーいうことならレッツゴーだぜ」


 入学してから早一ヶ月。

 当初あった新学期特有の緊張感も薄まり、皆それぞれが友達を作り学校生活を楽しみ始めている。

 かくいう俺も、何だかんだあって翔助と仲良くなった。

 茶色に髪を染め、それをしっかりとワックスでセットしている。どちらかといえば苦手なタイプだったけど、絡んでみるとそうでもなかった。学ランの前のボタンは全開け、その下にパーカーを着るという、個性的なスタイルだ。


「悠一はゴールデンウィークどっか行くのか?」


「いや、特に予定はないな。どこ行っても人が多いだろ?」


「そりゃな。なんつっても、ゴールデンなウイークなんだぜ? そりゃあ人は多いだろうよ。どっか行くか?」


「別にいいけど」


 学食に行く道中、話題はすぐそこに迫ったゴールデンウィークについてだ。


「つっても予定ないのが二日か三日しかないんだよ」


「誘ってきたわりには他に予定あるんだな」


「まあ、家族サービスみたいなもんだよ。彼女でもいれば問答無用に遊びに行ってたけど予定がなかったからな」


「ほーん」


 二日といえば紗月と深雪さんが出掛ける日だな。つまり俺と花恋ちゃんが家で二人の日。紗月はああ言うけど、やっぱり家を空けるのはちょっと心配だよな。


「二日三日は俺の方が予定ありだ」


「え、マジかよ」


「タイミングが噛み合わなかったな」


「何だよ、まさか彼女だとか言わねえだろうな?」


「違うわ」


「じゃあ何だよ?」


「……家族サービスみたいなもんかな」


 何て説明していいか分からなかったので適当に濁した。

 実は紗月とは同じクラスなのだが、同じ家に住んでいるなんてことがクラスに知られればいろいろと面倒だろうということで内緒にしておく方向で意見が一致したのだ。


「お前って兄妹とかいんの?」


「え? あー、まあ、そうだな」


「マジかよ!? どれだ? 兄か、弟か? 姉か? まさか妹!?」


「どういう熱量なんだよそれ」


「答えろよ悠一!」


「い、妹だよ」


 嘘をついた。

 本当は兄妹なんていないけど、居候のことは隠さないといけないし仕方ないだろう。


「へえーお前妹いんのか」


「んー、まあ血は繋がってないんだけどな」


「しかも義理だと!?」


 嘘に嘘を重ねる人ってこういう感じで泥沼にはまっていくのか。嘘を隠すためにさらなる嘘で誤魔化す。こうやって真実は闇に消えていくのだ。


「羨ましいなー」


「翔助はいないのか?」


「姉と兄がいる。家族サービスっつっても振り回されるだけなんだよ」


 末っ子なんだ。

 なんか意外だな。一番下はそれはそれで大変だと聞くけど、そうなんだろうなあ。


「くぅー羨ましいぜ。何だよ、ギャルゲーばっかしてるとそういう展開に向かってくのか? 俺もしようかな」


「んなわけないだろ」


 なんて話をしていると学食に到着した。購買で買って帰る案もあったが、せっかくここまで来たし学食で食うか、ということになった。

 俺はうどん、翔助は牛丼を頼んで空いている席に適当に座る。


「……」


「お、おす」


 狙ったわけではないけど、たまたま座った席の横に紗月が座っていた。ノーリアクションも失礼かと思い、一応挨拶程度に話しかける。


「どうも」


 ちょうど食べ終わったタイミングだったのか、紗月は食器を持って行ってしまう。


「お前、逢坂さんと知り合いなのか?」


「なんで?」


「いや、逢坂さんが男と話してるの珍しいと思ってさ」


「挨拶くらいするだろ? 一応同じクラスだし」


「いや、逢坂さん男とは距離置いてるから珍しいぜ。可愛いしお近づきになりたいけど、厳しいだろうなあ」


「……へえ」


 男子からはそういうイメージ持たれてるんだ。

 確かに男といるところは見たことないな。いつも周りは女子な気がする。

 今日は一人だったけど。


「さ、ささっと食っちまおうぜ」


「ああ、そうだな」


 昼飯を食べてる間、無愛想に去っていった紗月の顔が頭から離れなかった。

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