第4話 逢坂さんちの三姉妹④
駅から歩くこと十数分、ようやく逢坂家へと到着した。
二階建ての一軒家で外観だけ見ればだいぶ大きく見える。いい家住んでんなあ。
なんて感心していると深雪さんが先に家に入っていく。
「入らないの?」
俺がぼーっと家を眺めていると家に入ろうとした深雪さんが不思議そうな顔でこちらを見てくる。
「あ、いや行きます」
俺は慌てて深雪さんを追った。
これからはとうぶんは俺の家ということになるけれど、今はまだ人の家だ。そりゃ緊張する。
「おじゃましまーす」
「ただいま、でしょ?」
「まだ無理ですよ」
玄関に入ると人の家のにおいがして落ち着かない。ただいま、と言いながら深雪さんがリビングの方に入っていくので俺もそれについていく。こんなところで一人にされたらたまらない。
「……えっと」
リビングに入ろうとすると一人の女の子がいた。危うくぶつかりそうになったが、何とか踏みとどまる。戸惑いながら呟くと、その女の子はにこりと笑う。
「お待ちしてました、悠一お兄ちゃん」
「お兄ちゃんはよくないなあ」
破壊力がありすぎる。
その女の子は黒い髪のミドルヘア。丸っこい目と小さな鼻は子供っぽいのに桜色の唇はどこか大人びている。それだけではない、基本的に体のいろんな部分が女の子女の子している。
三姉妹のうちのどちらかなんだろうけど、果たしてどちらなのか。
「花恋ちゃん。紗月ちゃんは?」
「部屋にいると思うけど?」
「悠一くんに挨拶するからちょっと呼んできて」
深雪さんに言われると、花恋ちゃんの呼ばれたその子はええーっと一瞬面倒くさそうな顔をするが、ハッとしてすぐににこりと笑い直す。
「はーい」
言って、花恋ちゃんはリビングを出ていってしまう。結局彼女が三姉妹のどのポジションなのか聞きそびれた。
深雪さんは恐らく長女だろう。大人っぽいし、そんな気がする。
しばらくすると花恋ちゃんが戻ってくる。リビングでは四人がけのテーブルに俺と深雪さんが向かい合うように座っていたのだけれど、花恋ちゃんはてててと迷わず俺の横に座る。
いつもその席なのだろうか?
「紗月ちゃんは?」
「もう下りてくると思うよ」
深雪さんの話からしても、花恋ちゃんは俺の居候に対して反対意見は持ち合わせていないらしい。
そう、問題はこのあと登場する紗月という女の子だ。
「お待たせしました」
低い声と共にリビングに現れたのは茶色い髪が背中辺りまで伸びたロングヘアーの女の子だった。身長はそれなりにあるけど、体つきは花恋ちゃんよりも少し貧しく見える。
寝起きではないだろうけど、そう思わせるような不機嫌な雰囲気に俺は思わず固唾を飲む。
「こっち座って」
「はい」
ピッと伸びた背筋が彼女の性格を表している。横切った際に一瞬目が合ったが、明らかに歓迎ムードではなかった。
「では、改めて自己紹介しましょうか。私は逢坂深雪。高校二年生の長女です」
「逢坂紗月。高校一年です」
紗月は俺と同い年なのか。
ん?
あれ、ちょっと待って。ということはつまり、そういうことか?
「逢坂花恋。中学三年生でっす! 三女でーす!」
ビシッと敬礼のポーズを作り元気よく言う花恋ちゃん。それを聞いて俺はつい驚きを口にしてしまう。
「え、君が三女なの? てことはやっぱりあっちが次女……」
俺の視線が一瞬紗月の胸元に落ちる。女性は他人の視線に敏感だと聞くが、これは本当なのかもしれない。俺の一瞬の視線移動を彼女は見逃さなかった。
「今、どこを見たのですか?」
「あ、いや、えっと」
俺が答えあぐねていると、紗月はバンっとテーブルを叩いて立ち上がる。
「わたしは、やっぱり反対です! 男性とひとつ屋根の下なんて、考えられません!」
「で、でも紗月ちゃん」
何か言おうとした深雪さんを黙らせる勢いで紗月はさらに言葉を放つ。
「今ならまだ間に合います。ぜひこの家から出ていってください!」
「さすがにもう遅いよ」
ビシッと俺を指差して言う紗月に、花恋ちゃんは冷静なツッコミを入れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます