マンゴーの回

「そんなことある?」

「そんなこと言われましても、全員いなくなってしまったんで」

「えー。。なんでー。 結構いい暮らしだったと思ってたんだけど・・・月に20万もあげたんだよ」

「そうなんですけど、・・・今朝、寮に行ってみたら全員がいなくなってしまってまして」

 汗が噴き出てきた。別に焦っているわけではない。山城という麦わら帽子が似合うおじさんに怒られているわけでもない。ただただ熱いだけなのだ。

 4月に海開きをする糸満の5月はめちゃめちゃ熱い。梅雨が明けて急に気温が上昇しだす。その温度変化に身体が慣れないため異常なほど暑さを感じる。

「どうします?新しいのを連れてきますか?」

「そうだねぇ・・・あっ、あれがいいな高橋君呼んでよ。いや、僕が連絡すればいいか」

 山城は、マンゴーハウスの隅のほうで携帯で話し出した。もちろんスマホだ。

「野原さん、これから寮に行こうと思うんだけど、一緒にどう」

 野原は、ただの従業員のため選択の権利はなくイエスの返事をして、社用車をとりに行った。その後姿を見送りながら山城のスマホは高橋とつながった。

「高橋君、うちの従業員がいなくなったみたいなんだけど、何か知ってる?そうそう。いつも通り野原さんに行ってもらったらいなくなったんだけど。うん。前と同じ感じかもしれないねぁ。そう、あんまり疑いたくないから、高橋君お願いできる?」

 山城は一息ついた。

「社長車の用意ができました」

「わっ、びっくりした。急に驚かさないでよ。それに、そんなにかしこまらなくてもいいよ。どうせボロボロのトラックだし」

山城は、野原と一緒にトラックに乗った。


 ・・・台風の次の日だった。糸満は久しぶりに停電があり復旧までに一週間かかると沖電から連絡があった。沖電から連絡が来るくらいだから相当復旧が遅れているのだと感じた。山城は寮の従業員が心配になり見に行くことにした。

 一昔前に糸満にも民泊ブームが来た時があった。山城も当時住んでいた家を改装して民泊使用にしていたのだが、民泊がうまくいかず放置していた。持っているだけでも金がかかるから家を手放そうと思っていいた時期に、山城の果物や野菜がなぜか売れまくった。特にひよこ豆とオクラとドラゴンフルーツの白が面白いように売れた。山城は人手を確保しなければならなくなり、民泊の家をそのまま寮として使うことにした。

 寮はマエサトのはずれにあって、電気と水道が止まっていた。そして、寮の中には誰もいなかった。荷物や道具、財布や免許証 保険証まであるのに本人たちがいない。争った跡もない。

 それから今日まで誰もそのものを見ていない・・・


 山城はトラックが国道に出るころ、窓の外を眺めながら昔のことを思い出していた。あの時と違うのは台風でもなんでもない普通の日に起こったということだ。何気なく野原さんを見つめた。横で運転している野原さんはいつも通りシフトの切り替えが下手で、ギアを変えるごとにガクン ガクンと体が揺れた。


 ぼんやりと空を眺めていた。


 轟豪を過ぎたところで急に体が真横に押し出された。

 運転席側から大型車が突っ込んできたみたいだった。山城は横に押された後、体が回転するような感覚になったため、車体ごと回転していると思った。上下が高速で変わる。何が何だか分からなくなった。

[あらら」

 歩道ののり面にぶつかって止まったトラックから山城はおりて野原さんをみて目を伏せた。大型車から無表情の高橋が下りてきた。

「高橋君、これはひどいな」

「そうですね」

 山城の横に立った高橋は野原さんを見下ろしながら無表情のまま答えた。山城と、高橋が見下ろしている先には、大型車の追突で腹の裂けた野原が横たわっていた。裂けた腹からは、寮の住人が丸々入っていた。


 高橋はその場で野原を処分した。野原は黒い霧となり消えた。同時に腹から出てきた住人も液体になり流れて消えた。

「前の住人も野原さんですか」

「多分」


 山城は、従業員だった住人に向けて手を合わせていた。

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