高校デビュー前日はこんな感じの回

 黒く歪んだ物体が海の底から少しずつ歯磨き粉のようにニュルニュルと出てくる。


「うひひひひっ!!!」

 やっと人間の世界にこれた。これで私も自由の身になった。

「まずはなにをしようかな?うひひひひっ!!!」

 『週刊人間マガジン』でしっかり勉強してきたからな。もうどこからどう見ても人間と同じに見えているはずだ。付録dvdで言語も発音もしっかり身に着けた。私は人間の世界ではIQが高いといわれるやつになっているんだな。初めからなんでもできるっていうやつだ。

 自由に喋れる。自由に歩ける。自由に何でもできるというのはいいな。それにしても暗いな。『週刊人間マガジン』だと、昼間は明るいと載っていたが、「あっ、そういうことか!」今は夜なんだな。きっと。うひひひひっ。夜なら仕方がない。暗くて当たり前だな。

 それにしても、あいつが寝ている隙にトンネルからこっちにこれたからよかったな。こっちじゃないところのトンネルだったら終わっていたな。

「少し明るくなってきたな」

 これが朝ってものだな。気持ちいいな。うひひひひっ


「残念だけど、朝じゃないわよ。海底から浜辺に歩いてきただけ。海の底ってものは暗いものなのよ。しらなかったの?」


 女かな?喋り方が女みたいだな。うひひひひっ。『週刊人間マガジン』女は、おねえさん、おかあさん、おばあさんに分かれるってあったな。聞いてみよう。

「あなたは、女性ですか?うひひひひっ」

「そうねぇ、見た目で分からないようじゃまだまだね。私は。女性で、きれいで華奢なお嬢さんよ」


「ぶえっ!!!!」


 断末魔の叫びだけを残し、黒くて歪んだ物体は一瞬で亡くなった。


「あんなのが増えるから、私が働かなくちゃいけなくなるのよ。むかつく!」

 きれいで華奢なお嬢さんこと喜納玲子は、結果報告と感想となんやかんやの感情ををぶつけるために大城に連絡した。

 玲子は夕方だけで12体もあんなのを片付けていた。明日は入学式なのに面倒くさい。と、誰か変わってくれないかな。という感情だけしかなかった。13体。14体。

「なんで今日だけこんなに忙しいわけ!!」

「まあまあ、そんなに怒らないでよ。レイコちゃん。僕も手伝うからさ」

 玲子の隣には上原がいた。

「上原さん、私、明日、入学式なの。わかる?高校生になるの。かわいくデビューしたいの。なのに、こんなだりぃ状況のままだと、かわいく入学できないと思う。わかる?」

「気持ちはわかるけどさ、レイコちゃん。レイコちゃんの高校って糸高でしょ。ほとんど中学と変わらないんじゃないの?みんな知り合いだから、かわいくデビューは難しいとおもうよ」

「もう。そうなんだけど。・・・だから、田舎はいやなのよ」


「ぶえっ!!!」


「今、何体?」

「えっ、あっと、20体くらい?」

「しっかりしてよ、22体、今ので23たいですよ。上原さん」

「でも、糸高の制服ってかわいいよね」

「ですよねぇ」


 上原は少しだけ玲子の機嫌をとった。そのまま上原は大城に報告した。それにしても数が少ない。違和感が上原にはあった。

「レイコちゃんはもう終わりでいいよ。明日の準備もあるでしょ。後は代わるから」


 玲子は軽く会釈して帰っていった。


 子供はさっぱりしていていいな。上原はいつもレイコの去り際を感心していた。

「大城さん、少し少ないんじゃないですか?レイコ一人で足りてましたよ」

「なんか変だよねぇ。上原君も気づいちゃった?そうなんだよねぇ。これが時代の流れというやつなのか?」

 芝居がかった声で、大城が言った。

「そういう変なこと言うのはやめてくださいよ。経験の何たらみたいなもので、何かわかりませんか?」

「わかった。何とかしらべてみるよ」

「頼みましたよ」


「こんな時こそ山城さんの出番なのに。マンゴーと重なったのかな?」

上原は独り言を言いながら40体目を綺麗に消した。






 


 

 

 

 

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