死んだ?死んでない?の回

「死んだ」

 太陽を眺めながら大城は思った。なぜ自分が空高く上がって、落ちているのか。なぜ何の痛みも感じないのか。なぜ恐怖心がないのか。金城は何も考えなかった。不思議と考えることをしなかった。

 ゆっくり瞳を閉じて大城とのことを思い出した。たった数年の付き合いだが何十年も一緒に仕事をしているよな感覚によくなった。 大城の考えていることや、次の行動パターンなどは手に取るようにわかるようになっていた。自分に危険が迫りそうなときや迫っているときは、決まって大城は駆け付けた。大城自身の命を顧みないで助けてくれた。きっと今もそうしているはずだ。

 金城は『はっ!!!』っとした。大城は今も何かをしているはずだと確信した。自分が死を覚悟している場合じゃないと全身の細胞に指令を下した。なんでもいいから動けと。

 叫びに近い声とともに仰向けで落ちている身体をうつぶせの状態にすることができた。黒い棒上のものと大城が目視で確認できた。金城はためらいなく黒い棒めがけて急降下した。どれくらいの速度で落下しているのかはわからなかったが、目を開いていることはできなかった。


 金城はもう落下していないと感覚で感じ取れた。ゆっくり目をあけ辺りを見渡した。人生で初めて死後の世界を拝めると思った。しかしそこは、駐車場のままだった。死後の世界でもなんでもなかった。違っていたのは、カラフルな集団も黒い集団もいなくなっていた。

 自分がどんな体制かもわからなかったから確認しようと首を動かしてみた。

「うわっ」金城は小さく声を上げた。大城と目が合った。

「大城巡査長びっくりさせないでくださいよ」

 笑いながら金城は大城のほうに体を向けようとした。体中に電気が走ったような痛みはあったが、我慢できないほどではなかった。苦痛に少し顔をゆがめながら

「冗談みたいの話があるのですが、自分は少しだけ空を飛びました。・・・大城巡査長?大城・・・」

 やっとの思いで体を起こして大城のほう向くことのできた金城が話していたのは、大城の首から上だけだった。大城は両目が開いたまま金城のほう向いていた。金城は大城を見つめた。頭部だけの大城をしばらく理解できなかった。


「大城さんを預かっていいですか」

 突然後ろから男性の声がした。「ひっ」と反射的に聞こえるか聞こえないかくらいの声を金城はあげ、声の主のほうを見た。若い男性が大城の首をいつの間にか持って大事そうに丁寧に風呂敷のような布にくるんでいた。

「これ、珍しいでしょ。私も初めて使うんですよ。ずっと使いたかったんですけど、なかなかこんな状態になることがなかったから、今日はラッキーでした」

 何がラッキーなものか。大城巡査長は首だけになってしまった。僕はよくわからないまま宙を舞った。ラッキーなんて何一つない。金城は涙がこぼれだした。

「そうそう、私は高橋といいます。また、どこかで会うかもしれないので名前だけでも憶えていただけたら幸いです。大城さんのことは任せてください。まだまだ大丈夫ですよ」

 高橋は、金城の肩に手をかけ、軽くたたき去っていった。

  

 金城の涙はいつの間にか止まっていた。悲しみに満たされていた心もなぜか収まっていた。


「高橋は何者なのか?」


 金城は疑問だけが残った。


 

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