第7話 かまってちゃん系Hさん

 これは、私が今の会社で唯一……人生で最後になるであろうインパクトのあった方のお話です。  


 先輩オペレーターのHさん。女性の方でした。週五日フルタイムでシフトに入っていて夜はキャバクラで働いていました。

 いつも手作りのお弁当を持ってきていて、どうやらバレンタインデーには手作りのアイシングクッキーを配ったりしていたそうです。

 本人曰く、『お料理が得意で好きなんです!』だそうです。ちなみに私の偏見かもしれませんが、男女問わず、わざわざ自分からその様な家庭的アピールをしてくる人もあまりマトモな人は少ないのではないか、と思います。

 料理は義務教育の家庭科でやる事ですし、お料理したければすればいいですし、外食だっていいじゃないですか。むしろひとり暮らしだとあえて外食の方が食費節約になったり自分の時間も増える事もあります。

 

 私は、『お昼ご飯をしっかり食べると眠くなってしまうので、夜しっかりと美味しくご飯を食べる事を楽しみ』にして、お昼ご飯はブラックサンダーだけにしています。

  

 なので、入社した時は皆様に大変驚かれましたが、ちゃんと理由を説明したらご納得して頂けました。

 しかしHさんは、違ったのです。  

 「あやえるさん。お昼ごはん、ブラックサンダーだけですか?」と、いつもはじめて私のお昼ごはんを見たかの様に、毎日話しかけてきたのです。そして、「えー。無理!お昼ごはんブラックサンダーだけのんて。死んじゃいますよぉ。」と電話の声はすっごく小さいのに、この様な発音は他の従業員にわざと聞こえてるように大きな声で言うのです。

 

 最初は「心配してくれたり、新人の私に気を使って下さっているのかな?」と、思いましたが、一週間も毎日同じ事をされ続けられると、流石に私もうんざりしてきまして、 

「お昼ご飯をしっかり食べると眠くなってしまうので、夜しっかりと美味しくご飯を食べる事を楽しみ』にして、お昼ご飯はブラックサンダーだけにしていますし、生きてますので勝手に殺さないでください。」と、返答してました。

 すると毎回Hさんは、自分のお弁当アピールを私にするフリをして周りにアピールしていたのです。


 とにかくバナナと豆腐が好きらしくて「女性ホルモンにもいいんですよぉ」と、Hさんに言われた時に私は、『そうか。Hさんお豆腐とバナナ好きでよく召し上がるんだ。よく食べた物が身体を作るっていうから、お豆腐とバナナ好きだけれどもHさんみたいになりたくないからもう食べないようにしよう』と、心に誓ってしまいました。

 

 Hさんは、いつも身体のラインのわかる服装だったのですが、中肉中背体型でバストも小さくも大きくもなく、むしろ猫背で姿勢の悪い印象でした。

 

 その後も豆乳を飲んでいたかと思えば、いきなり自分の胸を揉みだして、『私、胸小さいので豆乳飲んでるんですぅ』と、男性社員さんもいるのに謎のアピール。男性社員さん達もあまり見ないようにしてくれているのに、「○○さぁーん。私胸小さいですよね?」と、話しかけていました。

 これが、まあ美人な方ならまだ良かったのでしょうが、正直キャバクラで働いている、と仰っておりましたが、Hさんは奥二重で目は小さく鼻も低いThe日本人!という顔立ちでした。

 

 更には、いつもから定時前に「今日はぁ、お客様にお仕事前に同伴で銀座の高級焼き肉ご馳走になってから出勤なんですぅ」と、謎のアピール。

 

 他にも、いきなり携帯で、鉄板で大きなお魚を焼いている動画を音声付きで観せてきて、「なんかぁ、昨日お仕事お休みだったのにお客様から新宿でお魚食べようってプライベートに連絡きてぇ。なら私の指名とお酒にしろって話ですよねぇ」と、大きな声でアピール。


 またある時は、腹筋の割れた上半身裸のカメラ目線の男性の写真を見せてきて、 

「えーっと。芸能人の方ですか?」

「違いますよぉ!全然一般人ですよ。」

   

 一般人の人は、上半身裸でカメラ目線の写真はなかなか撮らないと思いますが……。


「えーっと。Hさんの彼氏さん、ですか?」

「そんなんじゃないですぅ。」

「お友達ですか?」 

「えー?うーん。そんなんでもないですよぉ。」


 ……うん!どうでもいいよ!


「でもぉ、毎週土日はこの人のお家に呼ばれてお泊りしてるんです。」

「あ、そうなんですね。」

「あやえるさんって彼氏とかいないんですか?」

「いません。」

「あ、そうなんですね。」


 ……何が言いたいのかな?


「合コンとかマッチングアプリとか街コンとかしないんですか?」

「しませんね。自然と出会って好きになって、の方がまだいいかなぁ、と。」

「へー。」

「Hさんは、お付き合いしてなくて、お友達でもない男性の方の家にお泊りされるんですか?」

「まあ。そうなんですけどぉ。」

「あー、私にはまだ経験のない“大人のご関係”ですか?」

「“大人の関係”。えー?うーん。」と、Hさんは少しバツの悪そうな表情をしていました。 


 その後も出勤してきていきなり朝からひとりひとりに「私もう、終わりなんです。末期なんです。クズなんですぅ。」と、ひとりひとりに声を掛けて回っていました。皆様「そんな事ないよ。」「もっとクズな人はいるよ。」等などフォローして上げていたのですが、私の番になった時に、

「あやえるさーん。私、クズなんですぅ。」

「Hさん、クズなんですか?」

「はい。クズなんですぅ。」

「そうなんですねぇ。私はアゲマンです。」

と、返答して会話を強制終了させました。

 我ながらとんでもない失言を先輩にしてしまったな、と思いますがそれくらいウンザリしていたのです。

 しかし、この発言には社長様も社員様達も笑うのを堪えていました。


 その後も熱が出てフラフラすると、言うのに出勤してきて、しかも体温計を五分毎に計りだしました。いくらコロナとはいえ体温計持ち歩いてますアピールまでして……。

 更にはどうやら計る度に「あ、三十六度九でしたぁ。三十七度だったら駄目なんですよねぇ。」

 社長様が、

「怖いしこのご時世だから早退して。そのまま病院で検査も受けてきて。」

「えー?でもぉ、これでもし本当に私がコロナだったらぁ会社止められちゃいますよぉ?会社に迷惑掛けちゃうじゃないですかぁ?」


 もう、じゅうぶん迷惑だし、私はコロナより貴方の存在そのものが怖いです。   

 ある意味、貴方の存在がバイオで、コロナより色んなものを、ハザードしてますよ。 

 これが、リアルなバイオハザードですか?


 結局、もと医学療法士の勉強をしていたという後輩の男性オペレーター様に説得され早退させられてました。

  

 やはり周りの人もHさんにウンザリしていたのでしょう。 

「乾燥が気になっちゃってぇ。アラサーだからてますかね?」と、発言をした時に新卒の男性社員様が、

「あー、しかもアラサー女子ってその割にアイボリーとか明るいようでくすんだ感じの服着てますよね?なんかより肌トーン落ちて見えそうなのに。」と、言われてました。この彼の発言は、他のアラサー女性社員様達の逆鱗に触れてしまい、稼働中なのにオフィス外に呼び出されてお説教されてましたが。


 しかし、そんなHさん。

 ある日を堺に出勤されなくなったので、社長様に「そういえばHさんは今日もお休みですか?」と、し聞いてみたら「Hさんはあやえるちゃんがお休みの日に解雇したよ。」と、言われました。

 どうやらHさん、稼働中に居眠りをしていたらしく、社長様も「コロナで出勤したくても出来ないオペレーターもいるんだよ?皆で頑張ってアポイントとったり営業回ってるのに、働いてない人とは一緒に仕事できないよね?だからその場で早退させて、そのまま解雇しました。」と、仰っておりました。  


 後日、他の先輩オペレーター様から教えて頂いたのですが、社長様は静かにHさんを起こされて「今日は、もう帰りなさい。」と、だけ告げたそうです。 

 

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