第6話 脳内王子様系リーダーTさん

 これは、私が営業オペレーター職をしていた時のリーダーTさんのお話です。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、オペレーター職は服装や髪型が自由な所が多いです。私の職場もそうだったのですが、そこの会社の営業アポインターの総括リーダーの方が、まず金髪オールバックのいつもカラースーツ。  

 スーツの色も、シルバーや青など……もはやコスプレの領域の方でした。 

 自称、帰国子女だったので、話し方も海外ドラマの吹き替えの様な口調で、明らかに意味と発音の違う英単語を会話に入れたりしてるのに、たまに露骨なまでのエセ関西弁。

 本当の帰国子女や関西の方が彼を見たら、殺意や嫌悪感すら芽生えないくらいのドン引きをお約束出来ます。


 そんな彼は、性格もナルシスト且つパワハラのメンヘラの極みでした。


 まず、仕事中なのに一眼レフカメラを常に持っていて、電話しているアポインターを取り出したり、それを社内のグループLINEのアルバムに上げるのです。休みの日でも、オススメの映画を社内LINEで送ってきたり。完全に社内LINEをSNSと勘違いしていると思いました。


 更には、アポを取れないと「シフトを削る」と脅し、アポを取れても仇探しをして社内LINEで休みの日でも通達がありました。


 また、自分がアポを取ると、営業マンに「テメェ、俺が取ったアポ成約出来なかったらわかってんだろうな?あ?」と、電話してました。

 

 そんなある日、事件が起こります。


 うちの会社は、いくつかのグループ会社がまとまっていたのですが、なんと社長が会社のお金を持って夜逃げしたのです。 

 その日の夜にTさんから「会社がこんな状態なので、オペレーターは全員解雇させて頂きます。」と、社内LINEが来ました。


 しかし、その全体LINEの後にTさんから「あやえるは、明日出勤してね。」と、個別で連絡が来たのです。

 ちなみにその会社では、オペレーター通しの個別LINEが原則禁止とされていましたし、それを指示していたのはTさんでした。


 私は、よくわからないままとりあえず次の日に出勤すると、なんとうちのグループ以外の会社スタッフは普通に出勤し稼働していたのです。

 私は、パニックになりました。そこにTさんが私に近付いてきて来客室用の部屋に案内されました。

 扉を開けると、そこには爽やかなセーターを着たオフィスカジュアルの男性がいました。

 Tさんが「この子がうちのグループで、アポ獲得率と成約率ナンバーワンのトップオペレーターのあやえるです。」と、だけその男性に告げ、部屋から去って行きました。


 その男性は、「あやえるさん。はじめまして。○○です。まあ、座って。」と、声を掛けて来ました。  

 ソファに座ると名刺を出されたので、すかさず立ち上がろうとすると「座ったままでいいよ。」と、言われ、

「僕が新しい社長の○○です。今回は大変だったね。Tくんから話は聞いてるよ。あやえるさんの事は守るからこの後このまま稼働して行ってね。」と、言われました。

 オフィスに戻ると、Tさんの姿はありませんでした。

 しかし、その日の夜に、以前の全体LINEをTさんが削除していたのです。

 そしてまた個別LINEで、「これからもオペレーターへの個別LINEは禁止です。でも、あやえるの事は僕が守るから。僕を信じてね。」と、連絡が来ました。  

 禁止とはいえ、仲良くなる同世代のオペレーターの子とはLINE交換していました。

 しかし、その子達でさえ、その後も音信不通になってしまったのです。


 友達と連絡が取れなくなってしまったショックと、社内で何が起こっているのか全くわからない。

 次の日に出勤すると、私以外に前のグループの新人だったオペレーターが二人出勤していました。  

 二人にもTさんから連絡が来て出勤し、新しい社長に挨拶されたそうです。また新人だった為、二人は前のグループオペレーターの誰とも連絡先を交換していなかった二人でした。

   

 しかし、その後からTさんの暴走が始まります。

  

 私は、いつもお昼の休憩時間にご飯を食べ終わるとそのままデスクでお昼寝をしていたのですが、ある日どこからかオルゴール音楽が聴こえてきました。フッと目を覚ますとなんと隣の机にTさんが足を組んで座っているのです。

「ごめんね。あやえる、起こしちゃったかな?」

「あ、いえ。」

「いつもあやえるは、ランチを食べた後寝てるから。よりゆっくりして欲しくてね。オルゴールを流してみたんだ。」

「はぁ。お気遣いありがとうございます。」

「いいんだ。あやえる、君の夢の中に僕は現れられたかい?」


 Tさんは、正直そこそこ整っている顔立ちでしたし、オシャレでスタイルも良い方でした。

 しかし……いくらイケメンでも……私にはアウトでした。世に言う“但しイケメンに限る”は、通用せず、むしろ虫唾が走りました。

 

「そうだ!休憩所のソファを買い換えるか、ハンモックを買おうか悩んでいるんだけど、あやえるはどっちがいい?」

「何故ですか?」

「あやえるがよりゆっくり休める為にだよ。」

「そこに会社の経費を使うなら、お給料上げてほしいです。」

「もちろん僕のポケットマネーからに決まってるじゃないか!僕はブラックカードなんだ。まあ月収は安くても三十万なんだけどね。たださ、もう自分の為にお金を使うのに飽きちゃったって言うか。誰かの笑顔の為に使いたくてね。」

「そうなんですか。あ、でも私机で寝る方が落ち着くので大丈夫です。お気遣いありがとうございました。」

と、言ってそのまま私はお昼寝を続けました。


 しかしその日の夜にまた、Tさんから「以前のスタッフとは連絡とってないよね?」と、個別LINEが来ました。


 個別LINE、禁止じゃなかったの?


「個別LINE禁止とTさんが以前から仰っていたのえでとってませんし、Tさんが以前のグループLINEを削除されたので連絡を取れる手段もございません。」と、返信しました。すると、

「あやえる。こんな事になってしまって本当にすまない。でもあやえる。僕の事は信じてね。」


……『すまない』ってセリフ、少年ジャンプですか?!

 そういえば昔、お世話になっていた男性上司の方から「あやえるさん。“信じろ”って自分で言う男は、信じちゃ駄目だし関わらない方がいいよ。ロクな奴いないから。」と、よく言われていました。本当にそうなんだな、と思いました。

 ロクとか云々より、マトモではないですよね。


 その後も個別LINEがTさんから来る日々が続き、オフィスに花束を持ってきて、アポが取れると花束を持ってきて跪き、 

「アポ獲得おめでとう。一アポ獲得毎に一輪ずつ花をプレゼントしてあげるよ」と、花束から一輪花を取って差し出してきたのです。

 私は、「お花は食べられないので結構です。」と、動揺してヘッドセットを外さずパソコンから目を離さないままTさんに返答しました。


 その後も、全体LINEでTさんは、自撮り写真をアルバム共有してきまして……しかも毎回ウィンクでアヒル口なんです!

 私は、男性上司に言われた『“信じろ”って自分で言う男は、信じちゃ駄目だし関わらない方がいいよ。ロクな奴いないから。』にプラスして、『ウィンクとアヒル口をする男性』も、私の中の“ロクな人はでないし関わりたくないリスト”に、追加されました。


 あまりにも想像を越える事をされ続けたので友人に相談した所、「あやえる!明日上司にあやえるの事紹介しとくから!私の会社おいで!」と、言われました。

 そして、後日その友人の会社の社長様からご連絡が来て面接からの即日採用を頂き、現在も大変お世話になっております。


 他の作品でも書いてますが、私は色んな職業や企業に勤め、色んな役職も付きましたが、現在の会社が断トツでホワイトで、マトモで常識のある人しかいません。


 友人にも、今の会社の社長様にも本当に感謝です。

 

 ちなみに、Tさんからは退職後も個別LINEが来るので、最後は既読も付けずにブロックと削除させて頂きました。 


 

 

 

 

 

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