第4話 忠実過ぎる海底ダンジョン

「ありがたいけど、攻略しがいがないな」


 宝箱から手に入れた経験値を100倍にするという壊れアイテムを弄びながらアッシュはそれをインベントリーの中に封印する。


「こんな危ないアイテム。あのお花畑ヒロインの手に入ったらヤバいなんてもんじゃないよな」


 もっとも世間の噂によると光の乙女なら持っていなければいけない浄化能力をヒロインが一度も使ったことがないので、偽者説が出ているとか。


「確かゲームの設定だと浄化能力が必要になるのはセカンドシーズンからで、能力解放に必要なアイテムが全部で7種類。攻略対象者との好感度が高くないと手に入らないってか、装備できるのが攻略対象者一人につき一つだから7人全員の好感度が重要になるんだが…………あのお花畑ヒロインそれ知ってるのか?どっちにしろ放置しておくと面倒な事になりそうだから、先に回収しておくか」


 実のところ魔王だけはそのアイテムを一人で全部装備できるという謎設定があったのでアッシュはゲームの中で全て集めて、自分だけが装備していた。


 それでなくてもレベルが高かったのに重要アイテムまで魔王の元に集まったせいで、どう足掻いてもバッドエンド一直線。


 今のアッシュは魔王ではないが、手に入れておいて損はないだろうと、このダンジョンを出たらさっそく集めに行こうと決意した。








 海底ダンジョンのラスボスが居る部屋に入ったアッシュは、その部屋に居るべきボスの代わりに居てはおかしい人物の姿を見つけて首を傾げた。


「あれ?海底ダンジョンのラスボスは蛸タイプのクラーケンだったはずなのに、なんでポセイドン様が居るんだ??」

『久しいな。今、名乗っている名はアッシュだったか?』


 頭の中に響き渡る声にアッシュは慌てて槍を遠くへ投げ捨てると、土下座した。


 下半身が魚のままなので厳密に言えば土下座擬きだが。


(なんで!?なんで本物のポセイドン様がこの世界にいるんだよ??)

『驚くのも無理はない。しかしな、お気に入りの者を他神。それも格下に奪われて私が黙っていると思うか?』

「いえ。それはまったく思っていませんが、ただ昔に他の神の領域に立ち入るのも口を出す事も禁忌になると聞いた記憶があるのですが」

『その通り。しかしその約定を先に破ったのはこの世界の神だ。しかも調べたらかなりの数の女を連れて来ているのが分かった。それもわざわざ地球の日本を限定していることで日本の神が怒り狂っている』

「あー………元が日本で発売された乙女ゲーなのでゲームをやっていそうな人を選んだのでしょう。あいにく俺は大元のファーストは未体験なんですがね。たまたま見た目がライバルキャラにクリソツだったせいで拉致られました」

『その様だな。バカな奴だ。お前を選んだ事は見る目があったと言いたいが、私のお気に入りを他の世界にくくりつけおった事は許せん』

「くくりつけたって………俺はこの世界から戻れないのですか?」

『戻りたいのか?』

「えっとその………」

『言わんでも分かっている。お前の体質を考えれば今の地球は生きにくいであろう』


 そう魔法もなければ、人魚など物語の中にだけ存在していると信じられている地球では彼は何度も命を狙われてきた。


 それもポセイドンの加護が原因だ。


 姿を留める加護とは人の身でありながら不老不死になるということ。


 彼はこれ以上、姿こそ成長しないが技能だけは身につけられるので不老だとバレる前に名と姿を変えて各国を転々として生活をしていた。


 かつては海底にあるポセイドンの宮殿で過ごした事もあるが、やはり地上に居る方が性に合うとたまに宮殿に顔を出すことを条件に地上に戻してもらっていた。


 まさかそのせいで他の世界に拉致される事になるとは思わなかったが。


『流石にここまで疲弊した世界からお前を連れ出すことは出来ぬ。連れて帰れぬのは癪だが代わりにお前がやっていたゲームのセカンドシーズンとやらで使えた能力を一つ付けてやろう。何が欲しい?なんでもよいぞ』

「それでしたら、全ての武器防具を装備出来るようにしてください。これから手に入れなければならないアイテムは、一度装備すると持ち主が死ぬまで決して外れないという壊れ性能のアイテムなので俺にこそふさわしいと思いませんか?」

『……………フッ…………ワッハッハ!確かにお前以外にふさわしい者はおるまい。良いだろう。その願いかなえた』

「(かなえた?)ありがとうございます。でもこれでポセイドン様に会えなくなると思うと少し寂しくなります」

『そうか!ではいつでも会えるように海の真ん中にお前の為の島を贈ろう』

「へっ?」

『立ち入ることが出来るのはお前だけ。これがその証だ』


 ポセイドンがアッシュの額にキスをすると一瞬熱をもったもののすぐに収まった。


「ポセイドン様。何を?」

『額に私の加護紋をつけた。この世界の者には見ることが出来ない。それが鍵の代わりとなる。島に行きたい時は体の一部が水に触れてさえいれば、どこからでも行く事が出来る。むろん壁にめり込むことなどないから安心して使うがいい』

「あ…………アハハ………」

『家も用意しておいたメイドが必要なら』

「いえ!結構です。自分のことは自分で出来ますので」

『それもそうか。ではまた会おうぞ』

「はい。ポセイドン様」


 大きな水飛沫をあげてポセイドンは姿を消した。

 その後に残ったのは本来のボスであるクラーケンの姿。

 ただし瀕死状態だったので近づいて尾びれで一撃するだけの簡単な仕事だった。


「………また会おうって言ってたよな?………どういう事だ?………まあ、その時になれば分かるだろう…………」


 クラーケンから手に入れたアイテムはゲーム内で入手確率0.0001%というどれだけ運の数値を上げても、シーフにクラスチェンジしてアイテムスティールのレベルをMAXまで上げても入手出来ないと評判?のURLアイテム。

 全状態異常無効と1日1回だけ死亡を回避する指輪その名も『死者蘇生リング』という。


「ちげーし!」


 相変わらずの謎ネーミングに頭痛を覚えるアッシュだった。




 


 


 




 

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