第3話 海底ダンジョン
この世界のまだ誰も知らない未知のダンジョンに向かうのに、馬や馬車を利用していたら後をつけられたりする事もあるので慎重に行こうと思ったものの、海底にあるダンジョンになんて行ける存在がそうそう居るわけもないので、アッシュはダンジョンのある海から一番近い港町まで出ている乗り継ぎ馬車を使って移動する事にした。
それというのもアッシュは生まれつき足が弱く、長時間の移動には耐えられないからだ。
「こればっかりは種族特性だから何年たっても変わらないんだよな」
女神はただ見た目だけでアッシュを拉致してきたので、彼の事を何も知らない。
それゆえに自分のミスが上の存在にバレバレになっているなんて、思いもしていないだろう。
乗り継ぎ馬車で3日。
風に磯の香りが混じってきたことで、アッシュは縮こまっていた体を伸ばした。
「港町シーサイドにようこそ」
「どうも」
つくづくこのゲームを作った会社はネーミングセンスがないと思うアッシュ。
(そもそも爵位がラ・リ・ル・レ・ロで表す時点でお察しってやつだよな)
そうエミーリアの時についていたルとは爵位を表し、王族ラ公爵リ侯爵ル伯爵レ子爵ロで男爵は無しとなっていた。
(まあ分かりやすいちゃ分かりやすいけどさ)
男爵と平民の違いは家名があるかないかだけなので、どんなに功績をあげても平民は家名がつけられないと取って付けたような決まりがある。
(つくづくイビツというか適当に作られた感満載の世界だよな)
冒険者ギルドと商業ギルドはセカンドシーズンで出てきた関係上、存在しているがそれ以外のギルドはない。
セカンドシーズンで武器防具を売っていた店がある事と人族以外の攻略キャラがいたお陰で亜人というくくりでエルフやドワーフ、獣人などもいるがゲーム会社の方で細かく設定していなかったからか、色々なゲームや小説などをネタに種族を捏造したようで、弱点がある種族はそれがそのまま反映されている。
例えば吸血鬼は日差しとニンニクで弱り銀製品に弱いとか。
(そういやゲームの中でも吸血鬼を倒す武器が銀食器だった時には笑ったな)
シナリオライターの知識不足なのか、こだわりなのかは知らないが銀製品=銀食器になっていたのだ。
まだ銀のナイフなら分かるが、何故か銀のお盆まで武器扱いになっていた。
そこは武器じゃなくて盾としての防具だろうが!と炎上したのは当然だろう。
(半魚人は頭の皿が渇くと力が抜けるって河童と混同してるし、人魚は炎に弱いから燃やせとか。水の中で火魔法が使えるかっての。常識考えろ!常識を)
他にも謎設定やルールが山ほどあるのだが、あげるとキリがないので今はここまでにしておこう。
アッシュは冒険者ギルドで移動登録を済ませ、ざっと海のモンスターで常時依頼の出ているものを確認すると宿をとることもなくその足でさっそく海へ向かった。
「う~ん久しぶりの潮風はやっぱり最高だな」
海辺を歩きながら人の来ない岩場に身を隠し、魔法鞄の中に脱いだ服を仕舞うと一本の槍を取り出した。
「槍よりも鉾の方が得意なんだけど、まあ仕方ない」
魔法鞄を岩場の隙間に隠すとアッシュは海へ飛び込んだ。
そのとたんにアッシュの足は尾びれを持つ魚のように変化していく。
「この姿になるのも久しぶりだな」
そう実はアッシュは人魚の母親と人間の父親から生まれた半魚人もとい、半魚半人なのだった。
しかもアッシュの両親は海の神に仕える人魚と人間だった事から、生まれたアッシュにも海の神の加護が与えられ地上では人の姿、水の中では人魚の姿と2つの姿を持つだけでなく、性別も本当は両性具有なのである。
アッシュ以外に人魚が人間と結ばれる事が無かったことと、アッシュの生態が魚よりだった為に繁殖が困難な事から両性になったと思われるがアッシュとしては自分のような存在を増やす気はないので、ずいぶん昔に海の神に願って生殖能力を無くしてもらった。
まさかその決断が海の神に気に入られその姿を留められるとは思わなかったが。
(2つ目の約束が有効なら元の世界で持っていた技能として人魚の姿になれるだろうと思っていたが、当たりだな。って事は姿を留める方もあるのか………まあ、この世界なら珍しいけど全くいないわけじゃないから何とかなるか)
この世界の亜人にも人魚とのハーフはいる。
ただしこの世界には女神しかいないので、アッシュのように海の神の加護をうけた者はいない。
当然、能力はアッシュよりはるかに劣る。
調べたところ水中での移動や攻撃力は地上より上がるようだが、地上では足が弱く攻撃手段は遠距離攻撃のみ。
魔法が使えればまだマシな方で、ほとんどが槍しか使えないようだ。
そのため冒険者になる者など皆無と言ってもいいぐらい存在せず、漁師になる者が多いとか。
(漁師になったところで俺みたいに魚寄せが出来るわけじゃないから、網に追いこむぐらいしか出来ないって………どんな設定だよ)
しかも水の中で呼吸が出来るわけでなく、普通の人間より息が長いというだけで、はっきりいって利点の少ない種族だ。
(そういやサードシーズンでは全ての種族からアバターを選んで好きに恋愛出来るようにするってゲーム雑誌に載ってたけど、ゲーム会社事態が潰れて幻のゲーム(笑)ってSNSで弄られてたなぁ)
海底に向けて泳ぎながらアッシュは元になったゲームの事を思い出していた。
時折、向かってくるモンスターは槍をひとつきするだけで倒れるし、セカンドシーズンの設定が使えるようになったようで、倒したモンスターのアイテムは自動でインベントリーに収納されていく。
(チッ!インベントリーが搭載されるの遅すぎだっての!!)
何度かインベントリーが使えるのではと試してみても全然、全く反応が無かったので流石に現実にインベントリーは無理かと思っていたのだが、たんにセカンドシーズンに入ったと認識されるまで使えなかっただけらしい。
(他人の褌で相撲とるような女神だからな。どこまで忠実にセカンドシーズンを再現してるやら)
人魚姿のアッシュに敵うモンスターなど皆無のようで、あっさりと深海にあるダンジョンにたどり着いた。
「ゲームの時より深いな。これ俺以外に攻略出来るのか?」
ダンジョンの中も水で満たされている為に、ゲームでここへ来られるようになるのはエンディング後に手に入る裏アイテムの酸素ボンベと名付けられた腕輪が必要になるのだが、どこら辺がボンベなんだ?とSNSなどで叩かれまくったのは、このゲームのあるあるだ。
「うん。罠もモンスターも変更なし。ならマップも同じだな」
この海底ダンジョンは魔王を選んだ時だけエンディング前に入れる隠しダンジョンになるので、アッシュはマップを完全に記憶するぐらい攻略していた。
手元にあった方が便利なアイテムや、万が一ヒロインに渡ってはマズイ物だけを回収して回りながら、ついでに現実になった事でアイテム化した海藻類を採取していく。
「なんで海藻の名前が上海蟹なんだよ!普通にワカメとか昆布とかで良いだろうが!!真珠貝って名前の貝はないぞ。おまけに名前負けしてんじゃねえかよ。真珠が入ってないのに真珠貝名乗るな!!!」
色々ツッコミたいところだが、これらはゲームとは関係ない部分なので、女神の趣味か適当にそれらしい名前をつけただけなのだろう。
「誰かマトモな名前つけ直してくんねぇかな」
慣れるまで堪忍袋が持つだろうか?と思いながらもアッシュはサクサクと海底ダンジョンを攻略していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます