三分間の孤独
カップ麺にじょぼじょぼと湯を注ぐ。
なんとも情けない音だ。それでも注がねば食えないのだから仕方ない。
隣にスマホを置く。今は14時22分だから25分に開けりゃいいか。固めが好きなので少しはやめだっていい。
キッチンを眺めると「そろそろ開けてくれ」と言わんばかりの顔をした炊飯器が気を悪くしたような顔つきでこちらを見ている。それでいいのだ。どうせ後で開けるのだから。
テレビのリモコンをつけると年取ったキャスターが気難しい顔をしながら今日のニュースに管を巻いている。一瞬消そうか迷ったがそれにつけても耳が寂しいのでつけたままにしておいた。
世間で殺人事件があろうが、金融危機が起きようがカップ麺の前で俺は自由だった。俺とカップ麺が対になることで世界の時間は止まり、俺とカップ麺だけが中心にいるのだ。
しかし自由とは孤独でもあった。世界に俺とカップ麺しかないということは他の介在が許されるわけではない。かろうじて二人の世界と現世を繋げるのは耳にはいってくるキャスターの姦しい煽りであって、それもなくなると俺とカップ麺は時間の孤立に陥り、永遠にさ迷うことになるだろう。時間の支配者は時間から最も孤独な存在であることが肝要であると言われているようでもあった。
しかしその孤独は永遠というわけでもない。時間の支配者は孤独と引き換えに世界を支配できるというのなら、孤独を失うことは即ち支配者としてこの世界から消えることを意味する。
そのガードはいつだって切られるであろうし、少なくとも遠くなかった。
世界の均衡が腹の音と共に崩れ始める。因果なものだ。世界の支配を崩すかぎは欲望であるということに。
俺はたまらなくなって蓋を開けた。鶏ガラの香りが広がる。
そして俺は時間の孤独から解放され、一方で世界の支配者を解雇されたら、
しかしそんなことはどうでもいい。孤独より腹を満たす方が人間には重要なのだから。
スマホの時計をみるとやっと24分になった。早すぎるがまあいい。冷飯もぶちこめばさらに満足するだろうから。
箸を手に取り、そのままカップ麺の中へ突っ込んだ。
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