安物のイタリアン
ワインを買った。
安物だ。チリ産の1L150円もするかどうかも分からないものだ。
いや、安酒でいいのだ。普段ワインどころか酒すらまともに飲みはしないわけで、舌もまともに育っていない私にはこの程度が一番にあう。
100円ショップで買ったワイングラスに注ぐ程度の軽さ。この程度でいいのだ。
家に帰ってすぐ鍋に水をいれ沸騰させた。そこに乾パスタを投げ入れる。塩もいれない。どうせあんなもの味付けだ。
かための方が好みなので5分くらいでちゃっちゃとあげる。あげたあと道楽で買ったオリーブオイルを軽くかける。これも雰囲気だ。こうしたら旨くなるとか考えていない。
ソースだって力をいれない。先程の煮汁にこれまた安く買ったソースの素をどぼんと入れる。あと数分もしたら味の整ったミートソースが出きるだろう。
その間に買ってきたワイングラスを洗う。軽く水を切ってある程度落とす。水っ気を取るわけでもなくタオルの上に裏返して自然に落ちるのを待つのだ。
そうしていたらミートソースは湯で上がってるので鍋から取り出し、銀の袋を開けて、あらかじめ皿に乗せていたパスタの上にかける。
バジルとかなんとか、そんな洒落たものは乗せない。なんならオリーブオイルをかけただけでも自分のなかではおしゃれな方だ。
小さなデスクの上にタオルを置く。勿論ランチマットのつもりだ。ごわごわとしたタオルが皿を傾ける。それが妙におかしい。
そしてワイングラスを持ってきて買ってきた安酒を注ぐ。綺麗な白がグラスを彩った。
ここでフォークでも使えばいいのに久々に洗った箸を置いて手を合わせる。
そこにはお洒落なイタメシを気取ったミートソーススパゲッティとワイングラスっぽいガラス容器に入った安酒の二つがぽつんと転がっていた。
ミートソースパスタと白ワイン、なんて言うのすらおこがましい。
だが、これでいい。これでいいのだ。
300円もしていない夕食だが、私は確実にイタリアを感じている。今、異国にいるような気がしていることが大事でそれが本物であるかどうかは関係ないのだ。
そっとパスタを口に含んだ。
ナポリの味がした。
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