お題:格闘家
『決まったァー! 10試合連続KO! 弱冠16歳の若き獅子はどこまで勝ち進むというのかァー!?』
「ふゥー……」
控室で深く息を吐く。試合の緊張と勝利の高揚で体温が上がり続ける。出た汗すら蒸発しているような感覚は嫌いじゃない。
「失礼、インタビューいいかな?」
「あ?」
「ヒィっ!?」
顔を向けたら、記者の顔が恐怖に染まる。怖がらせるつもりはなかったが、試合後の顔はどうしても恐ろしげに写るらしい。
「すみませんね、試合後は気が立っているもので……」
「おやっさん……別に俺は……」
「鏡見てこい。修羅みたいな顔してるぞ」
「…………」
おやっさん……コーチにそう言われて、俺はタオルを被った。試合ならいざ知らず、素の状態でも顔のせいでビビられるのは少し傷つく。
体が落ち着くのを待っていると、ドアが無遠慮に開いた。
「お疲れー」
入ってきたのは、スカジャンにサンダルというラフな出立ちの小さい女性だった。怖がる様子もなく俺に近づく。
「まったく。まだまだガードが甘いねアンタは」
「あ? あぁ……」
「おー? このあたしにナマ言うたぁいい度胸だなァ子猫がよぉー!」
瞬間、有無を言わさず俺は姉御にヘッドロックされ、締め上げられる。
この人はおやっさんの娘で、俺のトレーナーだ。俺より低身長だが、俺より圧倒的に強い。だから敬意と畏怖を込めて、姉御だ。
「ぐっ……!」
「おらギブかぁ? ギブなのかぁ??」
「おい、試合直後で疲れてるんだからその辺で……」
「父ちゃんは黙ってなァ!」
「ぐう……」
「そこの記者も見せもんじゃないよ!!」
「はいぃっ!!」
記者が出て行くと、姉御は腕をゆるめて鼻を鳴らす。
「ったく。ちったぁ熱も冷めたかい? しこたまボディ打たれたんだ。痛くなってきたろ」
言われた通り、熱と入れ替わるように鈍痛が内臓を襲う。連戦連勝、無敗と囃し立てられちゃいるが、勝利の代償が重たいのは他の選手と何も変わらない。
「……青い顔して。そら、帰るよ。車ん中で手当てしたげるから。歩ける?」
「ああ……ありがとう、姉御」
「へへっ、仕方ない子だね本当に」
肩を借りると、姉御は嬉しそうにはにかむ。姉御の中では、俺はまだ助けてやるべき弟分なのだろう。
「……俺、まだまだ強くなるからな」
そう呟くと、脇腹を小突かれる。一瞬意識が飛ぶほどの衝撃。ハンマーで殴られたかと思った。
「そういうのはあたしの攻撃を避けれるようになってから言いな」
「ぐ、ふ……」
「おっと、そんなに痛かったかい。ごめんよ」
いまの一撃でなにかのタガが外れたらしい。疲労感が全身を染め上げ、視界が暗……く……
「ったく。無理ばっかして」
「お前に良いところを見せたいんだろうよ。……孫の顔、期待していいか?」
「あたぼうよ! ま、この朴念仁を落とすのにもうちょっと時間かかりそうだけどね」
自分より大きな身体を背負って、少女は笑顔を咲かせる。
「ガードの甘さは誰より知ってんだからね。覚悟しときな」
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