お題:絶交
「もう嫌い! 絶交だー!!」
我が弟の大声が公園にこだまする。
「うぅー、どうしましょう……」
ひどく落ち込んだ様子の我が友は、ベンチでアイスを食す私にそう尋ねた。
「どうしたもこうしたも、謝りゃいいでしょ」
「すぐ謝ったけど、反省してないって怒られちゃって……」
「まあ、いつもだしね。で、今回は何やらかしたの?」
「弟くんが転んじゃったので抱っこしてよしよししてあげたの」
「……小三の男子に?」
「はい」
そりゃダメだわ。ああ、しかもこいつ何が悪かったか一切わかってない顔だ。
「あのさぁ、あいつだって男の子よ? いくら本当の弟みたいで心配だからって、過保護はよくないでしょ。男子は同級生からの世間体が大事なんだからさ」
「そうなんです?」
「そうなの。それに……」
溢れ出す母性が影響してるのか、中学生とは思えないないすばでー……仮に私が男だったら理性霧散するだろうな。逆によく耐えてるな弟よ。
「それに、なんです?」
「己の破壊力を自覚した方がいいよ」
「はかっ……そんな怪力じゃないです!」
「そうか考えてみりゃ小三軽々持ち上げる膂力もあんのか。自覚深めろ」
「もぉー!」
ぷりぷりと怒る姿はあざとかわいいが、そのプニプニ二の腕に凄まじい筋力秘めてると思うと怖くなってきた。
とにかく、だ。
「かわいがってくれるのはいいけど、適切な距離感を保ちなさい。いまはちょっと離れるぐらいで済んでるけど、そのままだと思春期にマジで距離置かれるよ」
「そんなぁ……わ、わかりました。自制心を持ちます!」
決意が固まったところで、タイミングよく弟が来た。自分で絶交と言った手前、どう声をかけるか迷っているようだ。
私たちは小声で会議を始める。
「ど、どうしましょう。すっごく抱きしめたいです……!」
「だめだめだめ。鋼の意志だよ。ここはぐっとこらえて、あいつが自分で踏み出すまで待つの」
「ううう……っ」
我慢でぷるぷると震える友だちと困り果ててもじもじする弟が対峙する状況クソ面白ぇな。
しかし、いつまでも膠着していても仕方ない。私は弟に助け舟を出すことにした。
「言いたいこと、あるんじゃないの? お姉ちゃん席外すか?」
「……いい」
弟は一息吸って、ポケットからくしゃくしゃのシロツメクサを出した。
「絶交って言って、ごめんなさい!」
おお、やるじゃん。
友は口元を覆い、感動しているようだった。
「弟くん……!」
「すぐ頭撫でたり抱っこしたりすんの恥ずくてやだけど、やっぱ姉ちゃん好きだから……絶交、やめてくれる?」
「弟くぅぅぅん!!」
上目遣いが発動した瞬間、我が友の理性のタガが壊れる音がした。
うん。これは弟が悪い。
「私も大好きだからね! はあああかわいい!」
「や、やっぱり反省してないじゃんかー!!」
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