お題:陶芸
「『伝統の陶芸を継ぐ若き熱意』、ねぇ……」
新聞の端っこに載った幼馴染の仕事姿と写真を見比べる。
「なんだよ」
緊張し切ってる仏頂面と、まじまじ見られて不機嫌そうな顔がそっくりなのが面白くて私は小さく笑う。
「おちょくりに来たなら帰れ! 修行の邪魔すんな!」
「あり? 新聞デビューしたからもう一人前かと」
「阿呆か。あんなの若者だからって面白がってるだけだろ。俺の腕前なんか見てもいねぇ」
なるほど、やけに不機嫌なのはそういうわけか。たしかに記事は若者の生い立ちを語るばかりで、伝統工芸についてはろくすっぽ触れてない。彼の言う通り、古臭い文化に青春を捧げる傾奇者を面白がってるだけなのだろう。
「俺の腕がまだまだ爺さんに及ばねぇってお前もわかってんだろ。さっさと帰れ」
「いやいや。及ばないからこそ、出来栄えの客観視は必要でしょ。古物商の娘の審美眼じゃ不満かな?」
「……茶は自分で淹れろよ」
「はいな」
勝手知ったる台所でお茶を淹れ、私はお気に入りの湯呑みに玄米茶を注いで幼馴染に持っていく。
「熱いの飲むー?」
「おう……ってお前この湯呑み!」
「ん? キミが小学校の時に作った処女作だよ?」
「なんでまだ持ってんだよこんなモン……」
頭を抱えるのも仕方がない。なにせ、これは彼が私の誕生日にプレゼントしてくれた湯呑み。正真正銘、彼が初めて造った作品なのだ。
「……使いにくいだろ、それ」
「うん。ぐにゃぐにゃだから持ちにくいし、ひび割れを後から塞いでるから見栄えも悪いよ」
「恥ず……捨てろよそんなの」
「やーだね」
私は両手で大事に湯呑みを持つ。
「キミがすごい陶芸家になったら、「これは彼の初期の作品です」って周りの人に自慢するんだから」
「あっそ……好きにしろよ」
ふいと顔を逸らして、また作業に戻った。
ああは言ったけど、彼が陶芸家として大成するか否かは問題じゃない。
最初の作品を私にくれた。そして、それを覚えていてくれた。ただそれだけで、この歪な湯呑みは私にとって値千金の品なのだから。
「ふはー……お茶が美味い」
「……やっぱ氷くれ」
「はいなー」
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