お題:時計
「おにーさん、とけいのお医者さんってほんとう?」
実家の喫茶店を手伝っていたところ、小さい女の子にそう尋ねられた。
「時計の医者……修理ってこと?」
コクコクと頷くその子に事情を聞くと、どうやらおばあさんの家にある時計が壊れているという話をウチの母にしたところ、僕なら直せるかもしれないと吹き込まれたらしい。
「言っても工作がちょっと得意なぐらいだから、修理はちょっと……」
「だめ?」
「うん。下手に触って壊しちゃったら責任が取れないしね」
「ん……わかった! じゃあ聞いてくる!」
「……ん?」
そして翌日。
「おいしゃさん、おねがいします!」
僕の家に、立派な鳩時計が運ばれてきた。
抱えられるほどのサイズではあるが、木製なうえにかなり年季が入っている。装飾も細かいし、売られていた頃は高級だったはずだ。
時計と一緒にもらった小包には、菓子折りと二枚の手紙が入っていた。
一枚目は少女のおばあさんからのもの。
『この時計は、50年も前に買ったものです。
昔は正午に鳩が鳴いてくれたものでしたが、数年前からそれも止まってしまい、いまでは動かなくなりました。
修理に出すこともないと思っていたのですが、孫にお願いされ、預ける運びとなりました。
元より壊れていた時計ではありますが、よろしくお願い致します』
もう一枚は、少女からの手紙だった。
『はとを元気にしてあげてください。おねがいします!』
達筆で書かれた丁寧な文章と、元気いっぱいに書かれた文章。
何も手を出さずに返すこともできる。
だけど、もしも修理ができたら。もしも鳩をもう一度鳴かせることができれば、二人を笑顔にできる。
頬を叩き、気合を入れた。
「慎重に、絶対に壊さず直す!」
一週間後、少女とおばあさんが手を握り合い、固唾を飲んで時計を見守っていた。
針が12を指し示す。
鳩は鳴いた。
喜びの声を、高らかに響かせた。
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