お題:ネコ
「いらっしゃいにゃす」
学園祭ということで先輩のクラスがやっている喫茶店に来たはいいが、周りがクラシカルなメイド服の中、先輩だけは猫耳を付けて不機嫌そうにしていた。
「あーっと……ツッコミ入れた方がいいです?」
「触れたなら責任を持て……にゃす」
「あっはい。その取ってつけた耳と語尾なんすか。キャラ付け迷走してんすか」
「よし愛を込めてブッコロコロの刑にゃす」
「どっちにしろ死ぬタイプの選択肢だったか」
普段は無愛想をクールと言い換えてごまかしているタイプの先輩が、意味もなくキャラ変するとは思えない。というか目に見えて不機嫌だし。
「どうしたんですかホントに」
「昨日の売り上げが芳しくなかったことはもう話したな」
「たしか別の学年がやってるコスプレ喫茶に客吸われたんでしたっけ」
「対抗策を考えてもにっちもさっちもいかず、遂に我がクラスのアホどもは神社のくじ引きに全てを委ねた」
「丸投げっすね」
「結果、招き猫が吉と来た。けど予算がなさすぎて招き猫なんぞ買えず、何故だか私が招き猫役をするハメになった」
「なんで先輩に?」
「昨日サボった罰」
「自業自得っすねうはははは」
無言で頭をシバかれる。
先輩は深いため息を吐いた。
「こんな情けない格好、お前にだけは見られたくなかったのに……」
「俺は来てよかったっすよ? 先輩のかわいいとことがんばってるとこ、両方とも見れて得した気分です」
猫耳メイドなんてわかりやすい客寄せ、よっぽど容姿に自信がない限り拒否の一択だろう。そもそも昨日サボったというのも、野外の出店で起きた調理器具のトラブルを解決するためにあちこち走り回っていたせいだ。先輩には断る権利がある。
それなのに律儀に仕事を受けるあたり、本当に真面目な人だ。
「あっそ。私は給料も出ないのに媚びた真似しなきゃならんのだぞ。不機嫌この上ない」
「だったら、ご褒美とか自分で決めちゃえばいいんすよ。俺も学祭終わったら遊びに行くつもりですし」
「ふーん……じゃあ、お前は明日と明後日、私と付き合え」
「え、いいっすけど何故に……」
「ご褒美ってのはお前が提案したんだろう。街ブラといいが、川なんかもいいな……」
どうやらゲーセンに篭るという俺のささやかな計画は御破算になったらしい。
「もちろん、予定は空いてるな?」
「拒否権ないの知ってるんで」
「先輩のことをよくわかってる出来た後輩だな。……逃げられると思うなよ」
鋭い瞳とサディスティックに歪む口角。
なるほど。間違いなくこの人は猫だ。かわいいだけのイエネコじゃなく、狙った獲物を確実に捕らえる虎や豹の部類だけど。
「ちなみに今日はどうします?」
「予定がないならここで営業終了まで待ってろ。先輩として完璧な仕事ぶりを見せてやる。……にゃす」
その後、意外と先輩の無愛想猫耳メイドは好評を博し、売り上げは急増したそうな。
そして先輩は終了のチャイムと同時に猫耳を床に投げつけ、俺を引きずってストレス発散に向かうのだった。
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