お題:ドラゴン
「我を呼ぶのは誰だ……」
暗闇の奥から地鳴りのような声が響いてくる。強い不安に駆られるが、依頼を受けてる以上引き下がるわけにもいかない。
「俺は近くの村に依頼されてここに来た! この洞窟は村の特産品の鉱石が採れるんだが、少し前から恐ろしい魔物が住み着いたので追い出してほしいって内容だ! お前、話が通じるならここから出てくれないか!?」
「断る。我は恐ろしき火焔の巨龍……弱き人間どもに従う理由なし」
まあ、話し合いで解決するなら俺がここに来る理由もない。
「そうか。なら悪いが力づくだ!」
背中の大剣を構える。変化に気づいたのか、洞窟の声に揺らぎが出る。
「きッ、貴様まさか龍殺しか!」
「その通りだ。押し通るぞ!」
「それ以上来たら我が息吹が濁流となり貴様を押しつぶすぞ!」
「ん、お前火焔の龍じゃないのか?」
「あっ、それはその、ちッ違う! 我は両方使えるのだ!」
「だったら尚更危険だから退治する!」
「あ、ちょっまってぇ、ひぃぃぃぃ」
……やっぱりか。
奥に押し入ると、壁の隅で縮こまって震えている龍人族の少女がいた。
「おかしいと思ったんだ。怪我人どころか龍の痕跡すらなかったからな」
「ひぅぅぅぅころさないで……いたくしないでぇぇ……」
「何もしないよ。俺は龍を追い出せとは言われたけど、殺せなんて言われてないしな」
「ほ、ほんとぉ……?」
戦い続けるうちに『龍殺し』なんて大袈裟な名前をもらったが、鼻水まで垂らして泣いている子どもを斬れるほど無情にはなれない。
「さて、どうしてこんなことしてたんだ?」
「ぐすっ……あたし、空を飛んで遊んでたら風に攫われて……ひ、ひとりになって……」
「突風……竜巻か何かに巻き込まれたのか。ひとりぼっちで寂しかったろうに、よく頑張ったな」
頭を撫でて、涙を拭いてやる。本当に、生きていてよかった。
「俺がお前を親のとこまで帰してやるから心配すんな」
「ほ、ほんと……?」
「当たり前だ。まだこの辺は龍人への変換も激しいけど、俺は龍人も人間と分かり合えるって信じてる。それに、何が原因でも子どもが家族と引き離されるなんてあっちゃいけないしな!」
手を差し出す。少女は戸惑い、怖がっている。それでも、ゆっくりと。時間をかけてでも歩み寄ろうとしている。
俺にできるのは、この子の決断を待つことだ。
長い時間、多くの逡巡を経て、少女はようやく手を……
ぐぎゅるるるるるる
「あっ……」
「へへ、そうだった! まずはメシだよな。肉と魚、どっちが好きだ?」
「さ、さかな……焼いたやつ……」
「気が合うな。俺も好きだ! 川で獲ってくる!」
「あっ、待って……!」
少女が俺の手を掴む。鱗越しに優しい温もりが伝わる。
「ひとりにしないで……」
「じゃあ、一緒に行くか!」
「う、うんっ」
俺たちは二人で洞窟を出た。
さて、この子の家を探す旅の第一歩は、腹ごしらえからだな!
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