お題:キョンシー

「ぐおー、今宵は満月が綺麗だから噛むぞぉー!」

「なんか色々混ざってるな」

 文化祭でド定番のお化け屋敷。俺は裏方担当で、目の前の元気女はお化け担当だ。

「キョンシーってこういうのじゃないの?」

「デコのお札と中華風の衣装がなければなんの仮装かもわからないレベルだ」

「マジかー」

「とりあえず腕伸ばしてピョンピョンしとけばいいんじゃないか?」

「こう?」

 実践してみせると、一気にそれっぽくなった。吸血鬼とか狼男みたいなイメージが先行している妖怪はよくも悪くも再現が簡単でいい。

「……でも、お前の衣装やっぱおかしくないか? キョンシーってもっとこう……お前露出多くないか?」

 キョンシーといえば帽子に長袖のイメージだが、こいつが着ているのはチャイナドレスに近い。

「んー、あたしは中で脅かすんじゃなくて、受付とか宣伝役なんだってさ」

 ……一理ある戦略だ。元気なのはいいが、いかんせん声が明るすぎる。いま作っているセットはどちらかというと日本風の静かなイメージだから、お化け向きではないだろう。

「カワイイからいいけどね! まあ……スリットのせいで足とかほっぽり出してるし、ちょっと恥ずかしいけど」

「……俺も当日は宣伝回るわ。なんかお前の格好で宣伝してると誤認されそうだし」

「どういう意味さ!」

 そのままの意味だ。こいつを野に放つと、客は集まるだろうがウチがコスプレ喫茶か何かと勘違いされかねない。

 それなりに傷メイクでもして隣にいれば大丈夫だろう。

「でもやったー! フライドポテト割り勘しよ! B組が山盛りのやつ売るんだって!」

「無茶してるな……予算内で仕入れてる量だと、たぶんすぐ売り切れるぞ」

「え、じゃあすぐに行こ!」

 宣伝のことを諫言しようとして、やめた。せっかくの文化祭に義務を課すのも野暮な話だ。俺も楽しんで……

「へへっ、文化祭デートだね! ……なんつって!」

「……宣伝のこと忘れんなよ」

「リョーカイ!」

 当日、デートという言葉を意識しすぎた俺たちは二人揃ってキョンシーめいたぎこちない動きで文化祭を回ることとなった。

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