お題:足

「ウチって美脚なん?」

「は…………」

 教室でわけもなく居残っていると、クラスの女子がふとそう訊いてきた。

 返答に困る質問をされ、俺は思わず押し黙る。

「なんか言うてや」

「いやまあ……そうだと思うけど?」

「なんやねん歯切れの悪い」

 事実、こいつは美脚の部類に入るだろう。身長も高いし、ほどほどに運動神経もいいからモデル体型。さらにすらりと伸びた足を短めにしたスカートで強調しているのだから、是非を問われれば圧倒的に是だ。

 しかし。

 男子が美脚だのと言った日にはセクハラになるに決まっている。

「せ、世間一般的に考えるとまあ美脚と呼んでも異論ないんじゃないか」

「ほっほーん。で、アンタ自身はどう思うん?」

「一般論に同意だなー……」

「ふーん」

 何か不服そうに頷きながらも、会話が終わる。よし、乗りきっt

「じゃあウチの脚褒めてな」

 乗りきってなかったァー……

「褒めろと言われてもな……」

「美脚や思うとるんやろー? なんか言う事あるんとちゃうん」

「き、キレイだと思う」

「ほーん。で?」

「で!? え、えーっと……立ち姿が映える?」

「他には?」

「あー……うー……走るの早そう?」

「小学生かおどれは」

 彼女に「つまらない男」としてフラれた経験のある俺には女子が喜ぶ言葉を選ぶセンスも語彙力もない。頼むから解放してくれ……

「……前カノと比べてどうなん」

「え……あ、脚の話?」

「他に何があんねん」

「そりゃまあ、お前のが綺麗だけど」

「ほーん……踏んだろか?」

「何故ッ!?」

「男ってそういうの好きなんとちゃうん?」

「ちがッ、……人によるッ! 俺は違う!」

「ホンマかー?」

 訝しげに見られるが、頑として首を横に振る。

「正直に言うてみ? いまならエエことあるかもしれんでー?」

「なんで俺が詰められてんの? お前の目的って何なの!?」

「男が細かいこと気にすな。ほれどやねん。ほれ!」

 上履きを脱いだ素足で俺の胸を軽く蹴ってくる顔は、嗜虐心に満ちていた。

「なんやったらお前んち行って、もっと過激なことしたってもええんやで?」

「急にどうしたんだよお前……ケダモノかよ……!」

「そらお前、惚れた男がフリーになったらすぐ食うやろ」

 はい???

「しっかし元カノもアホやなぁ。こんな気ィ遣えて礼儀もできた男、同年代に滅多におらんのに『つまらん』とか……恋愛は自分でオモロくせんとなぁ?」

「ち、ちなみにどういった方針の面白さ……?」

「そらもう、ウチ以外で満足できんようさせたるわ!」

 豪快に笑い飛ばしてみせるその頬に、ほのかな乙女が見えた。

「返事は? はい、イエス?」

「……美脚で、強気で、案外乙女でかわいいところが好きなので彼女になってください」

「よろしいっ! 百点満点の花丸!」

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