お題:金属

「俺と結婚してくれ!」

「あの……困ります」

 花束を用意した通算30回目のプロポーズもあえなく玉砕した。

「くそぅ、何が足りないんだ……!」

「その……何回も言うように私は人間の雌のフォルムをしていても、金属製のゴーレムなんです。あなたと結婚しても、夫婦らしいことは何もできませんよ?」

「何も問題はありません!」

 そう、普通の夫婦像など知ったことか。俺はこの人と一緒に過ごせればそれでいい!

 あわよくば結婚したい!!

「私は力加減がへたくそなので、家事のほとんどが満足にできません」

「やってくれようとする気持ちが大事なんです!」

「潰してしまうかもしれないので、一緒に寝ることもできません」

「潰れないように体鍛えてます!」

「そ、その……子を成すことも、できません」

「それでも俺はあなたと一緒に人生送りたい!」

 彼女はますます困った表情を見せる。

「気持ちは嬉しいです……でも」

「わかってます! 人間と一緒に過ごすって決断は難しいと思いますし、ホントに嫌だったら即やめるんで言ってください! ただ、俺は諦めませんよ!」

 異種族の結婚が上手くいかないなんて、昔話から言われてることだ。きっと俺と生活したら、この人にとってもつらいことが山ほど起こってしまう。

 だけど俺は本当に嫌われたとしても愛を伝える。愛しちまったモンは止められない!

「いつか俺がその心、溶かしてみせますから!」

 明日もめげずに告白だ!

 次の作戦を練るため、俺は走り去った。



〜〜〜〜



「行っちゃった……」

 引き止める間も無くいなくなったので、伸ばしかけた手を所在なく胸元に寄せる。

 鋼鉄の体に内臓はない。もちろん、心臓だって。

 なのに何故だろう。彼に叫ばれるたび、胸が熱くなる。内側が熔解してるみたいだ。

「とっくに、融かされちゃってますよ……」

 まずは、柔らかいものを壊さない特訓をしよう。いつか、彼の体に触れるように。

 あの脆くて、温かい手を握れるように。

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