お題:岩
ウチの家の隣には、しめ縄で祀られた岩がある。
曰く、平安時代に封印された妖怪を封じ込めているらしい。那須の殺生石がスケールダウンしたようなものだろうけど、街を開発する際にはこの岩の撤去を巡って事故が多発したらしい。市街地には似合わない仰々しい岩だが、触らぬ神に祟りなし。余計な事はしない方が良いだろう。
……と、思うのだが。
『ごらァクソガキども!! 落書きなんぞしくさりおって祟り殺すぞォォオ!!』
「…………」
一応説明すると、僕は幽霊が見えるタイプじゃない。でも何故かあの岩に封印されてるキツネの妖怪だけはクッキリと見えているのだ。
『あ、お前いいところに! こやつらどうにかせい! わっちの岩が!!』
「あー……そこの小学生たち。それ呪われてるらしいからやめな」
「やめないよーだ!」
「のろい信じてるなんてバッカみてー!」
うーん、クソガキ。
ラチが明かないので、小学生二人のランドセルを引っ掴んだ。
「……それ、うちの敷地にあるんだよね。これ以上イタズラするなら、きみたちの学校とお父さんお母さんに連絡してきつーく怒ってもらうことになるけどどうする?」
「うっ……逃げろー!」
「くそー!」
逃げていく二人の背中を見送ったあと、岩を見る。クレヨンでぐちゃぐちゃになった岩を前に、妖怪は不機嫌そうに歯噛みしていた。
『なんじゃあやつら! 近頃の童は恐れを知らんのか!』
「最近の子は幽霊よりも親の説教と世間体が怖いんだってさ。僕が小さい頃はこの岩も怖がられてたんだけどね」
『そうじゃったな。近寄るのはお前ぐらいのものじゃった……ってお前が近寄ってきよるから怖がる童が減っとるんじゃなかろうな!?』
「わー掃除しないとなー」
『無視すなァ!!』
元々は恐ろしい妖怪だとか落ち武者だとか、いろいろな噂が飛び交っていたこの岩だが、実際に封印されていたのは尻尾が二本のキツネだ。
『くぅぅ、神社から供え物を盗んだだけでこんな目に遭い続けることになるとは……』
しかも実際の罪状はお供え泥棒だけらしい。バチ当たりの報いにしてもちょっと可哀想に思える。
庭からバケツとたわしを持ってきて、掃除をする。岩全体に水をかけると、キツネは涼しそうな顔をした。
『ほはぁー……涼むのう』
「実際に暑さを感じなくても、この日射は堪えるよね」
たわしでガシガシと落書きを擦る。ついでだし、苔なんかも一緒に削り取ってしまおう。
『おほぉー、そこもうちょっと強めにするのじゃ』
「はいはい」
『むほぁ! そ、そんなところまで……すけべ小僧め』
「掃除やめるよ?」
『後生じゃから掃除してくりゃれ』
「まったく……」
小さい頃から掃除しているので、この程度はすぐ終わる。掃除用具を片付けて、お供え物でも持ってきてあげよう。
―――――――
『――速報です。小学生二人が川で溺れ緊急搬送されましたが、命に別条はないとのことです。証言によると小学生は「狐に襲われた」と話しており……』
『フン。わっちの恐ろしさを思い知ったか。そうじゃ。わっちはかくも恐ろしき大妖怪、その名も……』
「おーい、桃切ったけどいる?」
『いりゅー!!』
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