お題:タマネギ
「俺は! 絶対食わん!!」
目の前の皿から顔を背けて猟犬のような勢いで唸る男の子を前に、私たち料理サークルの二人は困り果てていた。
「どーしよー……弟くんのタマネギ嫌い治してっていうご依頼を受けたはいいものの……」
「マジで犬だしあの子。ハンバーグやサラダはもちろん、ソースに入ってるのまで嗅ぎ分けてっし」
「やはりそうなりましたか……子ども特有の鋭敏な感覚……我が弟ながら、困りものです」
ため息をつく姉に対し、弟くんは強く吠えたてる。
「余計なことしてんじゃねーよ姉ちゃん!」
「余計とはなんですか。せっかく二人が休日に来てくれているというのに」
「それが余計なんだよ! こんなちっせーことに大学生の休日使わせてんじゃねーよ!!」
「反抗期から滲み出るいい子感……!」
「気遣いできる子だし」
でも、少しこの子は勘違いをしている。私たちは料理サークル。難しいレシピへの挑戦や新しい味の探求、お題に則した創作料理など、その活動(部費乱用とは言ってはならない)は多岐にわたる。
もちろん、好き嫌いを解消することも立派な活動なのだ!
「……小学校がお休みの日に時間使わせてごめんね?」
「は? いや……俺は、べつに……」
「お姉さんたち、弟くんがタマネギ食べれるように料理がんばる! だから、もうちょっとだけ付き合ってもらえるかな?」
かがんで目を合わせ、手を握る。作った料理を食べてもらう相手に年齢は関係ない。私たちは全力で臨むだけだ!
「わ、わかったから! 近い、近い!」
「あ、ごめんね」
「さーて、んじゃさっそく仕事に取り掛かるし。タマネギで嫌いなのって食感? 風味? それとも存在?」
「えっと……シャリシャリしてんのが嫌い」
「り。みじん切りっつーかミキサーした方が良いっぽいし」
「形は残らない方がいいですね。以前、カレーでくたくたになったものも残していました」
「言うなー!」
「なるほどなるほど…………」
大体のレシピは思いついた。あとは材料を確認して……
「――よし、あるね。カレーでいこう!」
「りー。まずはタマネギをミキサーにポイして……セロリ使っても大丈夫?」
「余りものだったので問題なしです」
「オッケー。先にタマネギをじっくり炒めて、他の野菜もミキサーに入れて……」
「完成! 野菜トロトロ、旨みたっぷりカレー!」
「いえーい、完璧っしょコレ。食ってみ? ほれほれ」
「わぷっ……うま! た、タマネギ入ってんの!?」
「入ってるから美味しいんだよ! いますぐ食べれなくても、ちょっとだけ苦手意識なくなったでしょ?」
「……ちょっとだけ、なら。うん」
頷いたのを見て、私たち三人は手を叩き合わせた。
「感謝します。私も創意工夫を続け、弟の苦手克服に尽力します」
「うん! 相談いつでも受けるから、がんばろーね!」
「ま、一番褒めてやるべきは当事者だし。えらいぞーチビ助」
頭をわしゃわしゃと撫でられると、弟くんは顔を真っ赤にして、手から逃げようと頭を振った。
「やめろよ!」
「大人から逃げられると思うなしチビっ子。大人しく撫でられとけー?」
「私も撫でるー!」
「では姉も」
「ヤメ、やめろーッ!!!」
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