お題:絶叫

「や、やだ! 待って!」

 懇願する相棒の声を背中に、俺は脱出の出口に駆け込む。

「すまんな……死んでくれ」

「うそ、やだやだやだやだぁあああぎゃああああああッッッ!?」

 そして取り残された彼女は幽霊に捕まって死んだ。

「尊い犠牲だった」

「てんめぇぇぇ裏切り者がぁぁぁあ」

「いやだってあれ間に合わんだろ。無理心中したくねぇんすわ」

 俺たちがプレイしていたのは殺人鬼から逃げるPvPゲーム。便宜上ホラゲーと呼ばれるが、つまるところは鬼ごっこ。そこまで驚かせる要素はない……はずなのだが、一緒にプレイしているコイツはビビり散らかしている。

「い、一度なくなった信用は、にど、二度と、二度とは」

「悪かったってば。それはそれとしていい絶叫だった」

「反省してないなぁお前なぁ!」

 だってあんな綺麗な叫び声、現代社会でなかなか聞けるものじゃない。

「清涼感のある濁音というのはとても嗜虐心をですね」

「お前、お前ぇぇぇ……!」

「というか、ホラー苦手なんだろ? やめときゃいいのに」

「そ、それは……お前が最近ずっとこのゲームばっか回してるからだろ。あたしだって一緒に遊びたいのに……」

 なんていじらしい奴なんだ。

「そうか……悪かったな。苦手なゲームさせちまって。一緒に別ゲーするか」

「ほ、ホントか! よかった……!」

「おう。最近ハマってるゲームがあるんだよ。……へへッ」


〜〜〜〜



「み゛ゃああああああッ!?」

「どこだァ?」

「おまっ、おまこれ怖ぁぁあああッ!!」

 こちらは幽霊と生存者が一対一で相対するタイプの脱出ゲーム。幽霊の主な目的は妨害……すなわちビビらせることにある。

「さあまだ始まったばっかりだぞー? もっと俺に悲鳴を聞かせてくれよ!」

「ひぎゃあああああ! ぴゃはぁああああ!?」

「やっぱりお前、かわいい奴だな」

「なッ、なんだよ急に!?」

「特に可哀想な姿が一番かわいいな!!」

「ゲス野郎ぅみょぁああああ!?」

「うはははは楽しい!!」

 この日は最高の夜になった。そして翌日、あっちが一番得意とするパズルゲームで完膚なきまでボッコボコにされたのだった。



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