お題:缶コーヒー
「あれぇ先輩、缶コーヒーなんて買っちゃって!」
うーわめんどくさ。
「うーわめんどくさ」
「顔と言葉と心の一致具合、流石ですね先輩」
「わかってるなら態度改めてくれないか」
「やです。ちょいウザ小悪魔系後輩が私のアイデンティティなんです」
自称でいいのかそれは。
「それよかですよ先輩。缶コーヒーなんて中学生orサラリーマンのカッコつけだけが存在意義の商品買っちゃってどうしたんですか。厨二病ですか、もしくは背伸びしたいお年頃?」
「お前の缶コーヒーに対する偏見えげつねぇな。ペットボトルで買うほど量いらねぇって思っただけだよ」
「えー? カッコつけたい気持ちがないって十万億土のヴァルハラとコキュートスに誓えますか?」
「めちゃくちゃ誓約させるし最後のは地獄じゃねぇか」
「覚悟を問うておるのであります」
「カッコつけにそこまで命張らねぇよ。というかお前、なんでそこまで問い詰めるんだよ。缶コーヒーアンチか? 自販機から出たての缶の熱さでヤケドして一生恨むと決めた過去でもあんのか?」
「なんで先輩がそれを知ってんですか!!」
事実かよ。
後輩は激しく咳払いをして仕切り直す。
「まずですね、缶コーヒーに限らずカッコつけにはリスクが伴うのです」
「ほう」
「歩き方、立ち姿、写真のポーズ、ハンバーガーの食べ方まで様々なものがありますが、それがサマになるのはアイドルや俳優のような顔も立ち振る舞いもスマートな人がやるからであって、先輩のようなヘイヘイ平々凡々な凡夫がやってもサブいだけなんですね」
「平凡と言われてるだけなのに何故だか傷つくわ」
「わかったら缶コーヒーなんて買わないでください。いいですね!」
「はいはい」
長ったらしい講釈ですっかりぬるくなったコーヒーをあおる。唇に当たるスチール缶の硬さが結構好きなのだが、ここまで言われるとしばらく買わないかもしれない。
……というか、こっちを見る目が怖い。まばたきひとつしやがらねぇ。
「……そんなにダメか?」
「へぁ? あ、当たり前です! そんなカッコつけを見ても付いてくる後輩は私ぐらいですね! 残念でした!」
なんで慌ててるんだコイツ。
「ふぅ……じゃあ、そんな後輩に嫌われないようせいぜい頑張るよ」
「! ふふん、よくわかってるじゃないですか。そうですそうです。先輩は私にだけ好かれるよう努力すればいいんです」
「ふーん。じゃあそうやってお前のために掛けた時間の責任をお前は取ってくれんのか」
「へ?」
「人の時間を自分に好かれるために使えって言うんだぞ? それ相応の責任ってモンを取る覚悟はあるんだよな。後輩よ?」
ぐっと詰め寄る。小悪魔系はどこへやら、後輩は目を回して混乱し始めた。
「そ、それは、そのぉ……」
「どうなんだ?」
「う、うぅー……ごめんなざぃ……」
縮こまった後輩を見て満足したので、そのデコに缶の角を軽く当てて俺は笑った。
「冗談だよ。仮に俺が時間を浪費したとして、それは俺の責任だ。自分のために使われた時間のために背負う責任なんて何もねぇよ」
「せ、先輩っ!」
「小悪魔系って『カッコつけ』をするにはまだまだ経験が足りてねぇな。ヒールを履いて背伸びしたいお年頃か?」
「せんぱぁぁぁい!!」
七面倒な後輩だが、背伸びが見え見えなこいつをからかうのは楽しいもんだ。
「もう許しません! 先輩のバーカ! 先輩のクラスにあることないこと吹聴してやりますからね!」
「人を呪わば穴二つだぞ」
「ぐ、ぬぬぬ……」
「レスバ弱いな。おっと、これも『カッコつけ』だったか?」
「先輩ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
しばらくはからかうネタになりそうだ。
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