お題:枕

「その枕、だいぶ古くなったな」

 ウチの飼い猫は基本的に何事にも興味を示さない達観猫だが、寝床の充実だけは何より優先している。

 その中でもお気に入りらしいのが俺の昔の枕だ。買い替えた時にちょうどいいと思って寝床のクッションにしたのだが、これがお気に召したらしく重用している。

 しかし、そんな枕も見てわかるほどボロボロになっている。隙を見て洗濯はしていたが、もう限界だろう。

「上等なの買ってやるか」

 そう思って、クッションを買ってきた。ペットショップで買ったおすすめの商品だ。これならお気に召すだろう。

「どうだ、めっちゃよさそうだろこれ!」

 猫はたふたふとクッションの具合を肉球で確かめると、古い枕をその上に運んでから寝始めた。

「そいつは手放さんのか……」

 ここまでくると、もういくらボロボロになっても置いておくべきだろうか。

「まあ、捨てないでおくか。そのうち飽きて使わなくなるだろうし」




「……あれから何年でしょうね」

 墓石の前に立つ少女は、つぎはぎだらけの枕を胸に抱いていた。二本の尻尾が静かに揺れる。

「飽きるなんてあり得ませんよ。猫又になったいまでも……いえ、いまだからこそ。あなたとの思い出が詰まったこれだけは、捨てられません」

 他人から見れば薄汚いものだとしても、彼女にとっては何百年経っても手放せない宝物なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る