お題:図書館
「ヘーイ司書サンおはようございマース!」
陽気な外国の娘さんというイメージ像がそのまま投影されたようなブロンドヘアの女の子が今日も来た。
「ああおはよう。君も飽きませんね」
「夏休みなのデース! 今日もオススメの本を教えてくだサイ!」
この騒がしい少女は意外と勉強家であり、ここ数日、図書館に通い詰めては本を読み、日本語を吸収している。
「そうですね……シンデレラはどうでしょう」
「Cinderella! プリンセスはカワイイデスネ!」
「まずは絵本、次に児童文学で読んでみましょうか」
「YES!」
本を読み始めると、少女は静かになる。その表情は真剣そのものである。
「司書サン。これはなんて読みマスカ?」
「ままはは、かな」
「ママでハハ……MotherのMother? Grandma?」
「わかりにくいですが、義理の母……stepmotherですね」
「Oh! ナルホド!」
納得すると、また少女は集中に入る。
近くに新しく大きい図書館ができたことも手伝って人がいないので、実質マンツーマンで日本語を教えているような状況だ。
蝉時雨が聞こえる。カーテンから入る生ぬるい風が風鈴を揺らす。暑い季節は嫌いだが、風流な空間は好きだ。
それに、彼女が少しでも快適に読書できる今日であることが喜ばしかった。
「読み終わりましタ! 一度見ているノデ、お話がわかるデス!」
「大変結構です。では、児童文学ですね」
「任せてくだサイ! ……字ばっかりデース」
「逐一教えますから」
初めての文学書に不安げな少女にフォローを入れるが、首を傾げられた。
「チクイチ? チクチクするデス?」
「いつでも、ということです」
「Oh! ホントデス!?」
少女はパァッと笑顔になると、カウンターの内側へ入ってきて隣に座った。
「司書サンのとなりはワタシのBest placeデース!」
「まったく……今日だけですよ」
「ハーイ! ……司書サン、コレ何デース?」
「どれですか……ほう、意外と難しい表現があるんですね。意味は……」
なんでもない夏の日。静かな図書館にページをめくる音が二つ。時々、話し声。
穏やかで、とても優しい日だ。
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