お題:責任

「ごめんなさい……」

「ゲホッ……気にするな」

 少女は、ベッドで寝込む少年に向けて土下座を続ける。

「わ、わたしに傘を貸したせいで雨に濡れて、風邪をひいてしまったんです。どうお詫びしていいか……」

「風邪をひいたのは、雨程度に負ける俺の体がまだまだ未熟なせいだ。そちらが気に病む必要はない」

「や、優しい……だからこそ心が痛む……」

 少年が朴訥な優しさを見せると、少女はダメージを受けて打ちひしがれる。相手の優しさがあるからこそ、そんな人に迷惑をかけた責任が自重を増してくるのだ。

「わたしには、あなたに風邪をひかせてしまった責任があります。なので、今日はか、か、看病にきました!」

 挙動不審具合から慣れていないのが丸わかりだが、せっかくの好意を無碍にはできないので少年は看病を受けることにした。

「ま、まずは元気の出る料理を……」

「すまない。母がもう作り置きをしている」

「あっ、そうですよね……じゃあ、飲み物とか……」

「そこに置いてある」

「じゃあ、じゃあ……あうぅ……」

 早くも刃折れ矢尽きた少女は再び打ちひしがれる。

「うう、こうなったら……ど、どうぞ!」

「腕を広げてどうしたんだ?」

「風邪をうつしてください!」

「うつせば治る、は迷信だ」

「がーーーーーん」

 このままあまりに彼女が不憫だと思った少年は、何か頼めそうなことを考えた結果、まだ冷たい冷えピタを交換してもらうという手を打ち出した。

「わ、わかりました。……わ、こんなに冷たいのが効かないなんて……ちょっと待っててくださいね」

 転びやしないかと心配になる足音で走って行った少女はタオルを持ってきて、畳んだそれを額に置いた。

「冷たい……?」

「ほ、保冷剤を包んだんです。熱がある時はママがそうしてくれて……つ、冷たすぎたら言ってください。私が体温でちょっと溶かすので……」

「いや、心地いい。ありがとう」

「へ、へへへ……他にも何かあったら、いつでも言ってくださいね」

 不器用だが優しい少女は、少年が眠るまでベッドのそばで寄り添い、そのまま夜まで看病という名の待機を続けるのであった。




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