お題:●●

 今日、謎の生き物を拾った。

 真っ黒で毛むくじゃら。異様に軽くて、目がまんまる。鳴き声はない。

 似ている生き物が思い浮かばない程度には謎だ。

 恐る恐る猫缶をあげると、食べた。缶ごと。

 雑食らしい。ゴミが出ないのはいいことだ。

 とにかく、こいつを飼ってみよう。独り身で寂しいし。




 わかったことがある。こいつはよくわからん。

 いやマジで。少なくともパンピーの私にとっては知識の外側にいる。

 水かけると縮むし、トイレしないし、何も要求しない。

 ただじっと私を見つめ続けてるだけだ。

 名前もつけた。謎だからリドル。

 まあ、害はなさそうだし。もし害があっても、どうでもいいし。




 腹を刺された。

 親が借金した闇金が押しかけてきて、もみ合いになった。連中、金目のものだけはしっかり奪って逃げてやんの。

 意識が白む。刺さったままの包丁から、とくとくと血が流れ出ていく。

 馬鹿でもわかる。これは、死ぬ。

 リドルが寄ってきた。どこに隠れていたんだか。

 じっと私を見つめるリドルは黒い体を膨らませ、覆い被さってきた。

 捕食だってわかった。

 別に食われてもいい。クソくだらない人生の幕引きが謎生物に捕食されるってオチなら、あの世の笑い種ぐらいにはなるだろう。

 ああ、でも。包丁、口切らないように気をつけてね。





 何故だか傷が治った。

 しかし、どうしたもんか。

 闇金の連中、私が生きてると知れたら血眼になって探しにくるだろう。

 かといって警察に駆け込んで「この子のおかげで傷治りました」なんて言おうモンなら精神病院直行だ。いや、血溜まり残ってるし私が殺人容疑か? よくわからん。

 幸いなことに、タンス裏のへそくりは無事だった。パスポートも残ってたし、どっか遠くへ逃げる事はできそうだ。

 さっさとここを出よう。命の恩人を連れて、どこか遠くへ。

 あ、でもコイツって空港通れるのか?

 ……まあ、こいつならなんとかなるか。食べ物と一緒にキャリーバッグにインして、X線を素通りしてもらおう。

 多分大丈夫。多分、コイツなら。

 リドルと一緒ならどこだって生きていけそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る