お題:祭り

 祭りにも様々、形がある。神社なんかの祭事に伴って行われることもあるし、町おこしの場合もある。

 ウチの市でのそれは、伝統行事にあたる。踊り子が伝統の『節』に合わせて踊るというだけのシンプルなものだが、近年は曲調を変えたりして若者の踊り子を取り入れようとしている。

 俺は結構それが好きで、祭りには踊り子として参加している。いまではライフワークとすら言えるほどのめり込んでおり、もっと精進するため日々練習の最中だ。

「険しい顔してるね」

「あ、おざす」

 踊り子が増えてきているとはいえ、若者は少ない。ほとんどは年上の社会人だ。先輩にあたる女性に挨拶すると、その後ろから小学生の女の子が顔を見せる。

「おはよう」

「お、おはよー……」

 警戒されているらしい。

 ほとんどが大人な中、若めの男が入ってきたら好奇心と警戒心を抱くのも無理はない。

「あんた、本祭の日って出番まで暇よね?」

「まあ、やることないんで練習してようかなって」

「踊りバカめ。そんなら、この子と祭り回ってあげてくれない? 保護者いないと大変だからさ」

「俺でいいんなら大丈夫っすけど……」

 女の子を一瞥する。サッと隠れられた。

「……ダメっぽいすかね?」

「照れてんの。この子、あんたのこと大好きで」

「わーっ! わー!!!」

「おっと。そういうことだから、頼んだわよ」

「はぁ……」

 顔を真っ赤にして肩で息をする少女はこちらを見上げると、すぐに目を逸らした。

「えーっと……」

「〜〜〜〜っ! 大好きだからデートしてほしいです!」

 大胆な告白である。

 誰しも幼稚園や小学校の先生に恋するように、年上というのはそれだけで魅力的に見えてしまうものなんだろう。そう思うと微笑ましい恋愛感情だが、本人なりに必死の思いを無碍に笑ってはいけない。

「いいよ。一緒に祭り行こうか」

「やったぁー!! じゃ、じゃあ私とお付き合いしてくれますか!?」

「それは倫理的にアレだからなー……大きくなってもまだ好きだったら、もう一回言ってね」

「わかった! げんち取った! やったー!!」

「ん!?」

 迂闊な発言をしてしまったが、時既に遅し。

 外堀が爆速で埋められていたのだと察したのは、この日から5年が経った頃……つまりは、『大きくなっても』が現実になったのである。

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