お題:光

「目が死んでます!」

「……そうね」

「自覚があるのに、目に光がない。これは相当マズいですね!」

 私の目を覗き込むなり、後輩の彼は少し焦った様子で続ける。

「どうすればいいでしょうか!?」

「知らないわ。視覚機能に支障はないし、問題視したことがないもの」

「いや、ダメですって!」

「何故? あなたも今日まで何も言わなかったじゃない」

「それは……とにかく目に光を出しましょう!」

 無理やりな話題転換、手にはじっとりと汗。何かよからぬことを吹き込まれたか、あるいは耳にしたか。

 どちらにしろ、少し泳がせてみよう。彼が私のために何をしてくれるのか、気になる。

「何か策があるの?」

「はいっ。改善方法を調べてみたんです。例えば、目を少し大きく開くようにしてみるとか!」

「黒目が小さいから、見開くと死んだ三白眼になるわね」

「じゃ、じゃあ眉を動かすようにしてみるのは」

「髪で隠れているから関係ないわね」

「前髪上げればいいじゃないですか!」

「嫌よ」

 提案のことごとくを却下すると、彼は意気消沈して倒れ込んだ。

「大丈夫?」

「平気です……」

「ねえ、どうして急に私の目を気にし始めたの?」

「……同級生とか先生が、先輩は目つきが悪いからって悪印象持ってるんです。それが納得できなくて……」

 バツが悪そうに理由を告げると、彼は頭をさげた。

「みんなにも先輩がフツーの人だって知ってほしかったんです。何もできない、ふがいない後輩ですみません……」

「あなたを不甲斐ないと思ったことは一度もないわ。それに、私が周りにどう思われていようと関係ないじゃない」

 そう。有象無象に好かれる八方美人の生き方を私は嫌った。だからこうして愛想なんて忘れた気楽な生き方をしている。その生き方を変えるつもりはない。

「私が愛想を振り撒かなくたって、あなたは一緒にいてくれるんでしょう?」

「!」

 ぼんっ、と彼は耳まで真っ赤になる。そういう純粋なところがお気に入りだ。

「まあ、面倒な女って自覚もあるから嫌になったら離れて結構よ」

「卑屈なこと言わないでくださいって先輩!」

 そういえば、口ぶりからして気付いていないのかしら。

 私の目に光がないのは、些細なことに苛立ってしまう性格のせいで眉間にしわが寄り、固まっているせいだ。つまり、リラックスすれば私の目は普通に戻るのだ。

 あなたと話している間の私は、きっと……ね。

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