お題:喧嘩
「あいつらが喧嘩売ってきたんだ!」
「ふーん。で?」
「舐めたこと言われて黙ってられなかったんだって!」
「で?」
「だ、だから……」
「…………」
顔にアザをこしらえた少女が、膝枕と氷嚢で看病している少年へ必死で言い訳をしているという構図に、周囲の生徒は困惑していた。
「どういう状況?」
「また喧嘩したみたい」
「ああ、なるほど……」
すぐに納得されるほど、周囲に知れ渡っている約束事が二人にはあった。
「喧嘩しないって約束を破ったのは悪かったけど、アタシだって譲れないことがあるんだよ!」
「……譲れなかったら、人を殴っていいの?」
「それは……」
「約束を破って、いいの?」
「……ごめん」
「わかったならよし」
少年が頷くと、少女は心底から安堵の息を吐き出した。
「やっと、みんなも君が怖くないってわかってくれるようになった。喧嘩はよくない。怪我もするし、みんなを怖がらせる。それに、君が悪者扱いされる。よくない」
「……すまん」
「どうして、喧嘩したの?」
「それは……あいつらがお前の靴に画鋲入れてるの見たから、カッとなったんだよ」
「俺に? なんで?」
「アタシと一緒にいるからだ。いままでだって色々嫌味言ってきたのに、お前がノーダメだから嫌がらせにシフトしたんだろ」
「嫌味……言われた覚えがない」
この少年、大概のことは持ち前の天然思考で柔らかく受け止めてしまうので、嫌味や皮肉の類が一切通用しないのである。
少女は「だろうな」と言って笑った。
「でも、アタシだってお前に危害が及ぶのは絶対に許せない。だから『次』なんて気が起こらないぐらいボッコボコにしてやろうって思った。……暴力に頼ってばっかだな、アタシ」
「少しずつ変わればいい。一朝一夕で変われるなら、人はこんなに悩まない」
「慰めてくれてありがとよ。さて、アタシも先生に怒られてくっか」
「そこは大丈夫。もう事情を説明してある。俺の靴を証拠として渡したし、目撃者も捕まえて証言してもらったから」
「……アタシ、お前が恋人で本当によかったよ」
「照れる」
この日を機に、あの二人に危害を加えるとエラいことになると知れ渡ったそうな。
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