お題:決断
「やるか、やらぬか。それが問題ですね」
「……一応聞くけど、何を?」
「そんなの、スイーツの話に決まっています。期間限定メニューのイチゴ尽くしパフェか、数量限定のふわとろフォンダン・オ・ショコラか……」
凄まじく真剣な表情でカフェの立て看板を見つめる友人を前に、私は呆れるしかなかった。
「アンタ、陸上のためにスイーツ禁止してるんでしょ? やらぬ一択じゃないのそれ」
「だからこそ悩んでいるのです。片方しか食べられないのですから」
どうやら彼女にとっての禁止とはスイーツより甘い制限であるらしい。
「気にして遊ぶ場所選んでた私がバカみたいじゃん……」
「違います。本当に禁止してはいるのです。気遣いも感謝しています。しかし、我慢ばかりのストレスは悪影響だとコーチに諭されまして……」
体を作るための栄養管理は重要だが、同時にメンタルヘルスも気にする必要がある。厳しいトレーニングに身を置くアスリートは、定期的にチートデイという好き勝手に過ごしていい日を設けているらしい。
「ふーん。じゃあ二つとも食べていいんじゃないの」
「そ、その……」
「…………」
「……き、昨日ついクレープを」
「はいこの話おーわり」
「後生です! 後生ですからどうか!!」
「わかったからスカート掴むな!!」
冷静なペース管理がウリの長距離ランナーが聞いて呆れるほどの狼狽っぷりだ。憧れてる後輩が見たら幻滅されるぞホントに。
「というか意志弱すぎでしょ! 記録落ちても知らないからね!?」
「うう……最近、トレーニングがハードになった上に勉強も難しくて、ストレスが限界だったんです……」
小さい子供を怒っているようで可哀想になってきたが、それもこれも彼女が自分で選択した道だ。花の女子高生生活を投げ打ってでも陸上をすると決断したのだから。
だから、私にできることはひとつ。
「仕方ない奴め。ほら、行くよ」
「はい……」
「両方頼んで半々にすれば、多少はごまかせるでしょ?」
「えっ、いいんですか……!?」
「その代わり、ちゃんと結果残してよね」
友人たる私が共犯者になってやるんだから。
幸せそうな顔をしてスイーツを頬張った彼女が、その競技のレコードを塗り替えることになるのは、まだ先の話だ。
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