お題:死神
「あー? また来たのかお前」
ひしゃげたタバコを投げ捨て、ボロボロのコートを纏う少女が呆れのため息を落とす。
「何回追い返しても懲りねぇな。ここは此岸と彼岸を繋ぐ場所。生き物が無闇に入り込んでいい所じゃねぇんだ……あ? あたしは違うんだよ」
少女が面倒臭そうにコートを脱ぐと、その背から赤い翼が広がった。頭上にはどろりと溶けたような輪が浮いている。
「わかったか? あたしは死神って奴だ。ま、いまの仕事はお前みたいな奴らがうっかりこっちに来ないよう見張ることだけどな」
クソつまらねぇ、と付け加えると、少女は空中に寝転がってシッシと手を払った。
「だからとっとと帰れ。あたしの仕事増やすな。……はぁ、どうせまた来るんだろうなお前。どうしてわかるって? その目だ。トチ狂った色しやがって……はーロクでもねぇ」
少女は意地悪な笑みを見せる。唇からギザギザの歯が覗いた。
「お前、あたしみたいになっちまうぜ?」
死神の瞳が紅く揺れる。他者を拒絶する威圧感と蠱惑的な魅力を併せ持つ光は、虫を呼び込む炎に似ていた。
「なーんて、な。次はねぇぞ。もしもまた顔を見せたら……」
べぇ、と舌を出して笑う。
「てけれっつのぱぁ、だかんな」
死神に魅入られた、という言葉があるが。
きっと見惚れたのはいつだって人間の方だ。
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