お題:手
手には人の性格が出るのだという。
優しい人の手は冷たいだとか、手相の云々だとか、そういうものもあるが、俺の手に滲み出るのは性根の醜さだ。
関節がぼこりと膨れており、爪を噛む悪癖のせいで指先はいつもボロボロ。人にじっくり見せるような代物じゃない。モナリザの手が至高とするのなら、俺の手は生ゴミにも劣る。
「また卑下した自分語りかい?」
思考をメモに走り書きしていると、聡明そうな少女がそれを覗き込んできた。
「……ほっといてくれ」
「キミは実に滋味のある文章を紡ぐというのに、内容が後ろ向きすぎるのが問題だな」
「後ろ向きなんかじゃない。単なる事実の羅列だ」
「それが後ろ向きだと言うに」
やめろと何度言ってもこいつは絡んでくる。俺に褒められるところなんてあるわけないのに。
「爪がガタガタでも、形が歪でもそれがどうした? キミは充分に優しい男さ」
「……うるさい」
こいつといると、無意味な自分に意味を感じそうになる。俺はそれが怖い。無意味だけが俺のアイデンティティだった。それを失った俺に何が残るというんだ。
「七面倒な思考回路だな、まったく。危惧しなくとも、ほら」
「あっ」
思わず彼女の手を掴んだ。次の一歩が水溜りだったのだ。
「そらみろ。優しい」
「……うるさい」
近寄るな。これ以上、俺の手を温かくさせるな。
そんな願いも虚しく、彼女はいつまでもついてくるのだった。
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