お題:風

 強風が窓をガタガタ揺らす。叩きつけるような雨音を切り裂いて轟く雷鳴。近年まれに見る台風の襲来だった。

「ねぇ、やっぱりやめようよ!」

「止めてくれるな。やらねばならぬ!」

 制止も聞かず、少年は自転車を押して豪風が吹き荒ぶ屋外へ飛び出す。

「今日こそ俺が勝ぁぁつ! 行くぞ、CO2エンジン搭載ブラックMarkIII!!」

 意気軒昂でまたがった瞬間、ブラックMarkIIIと少年はひっくり返って吹き飛ばされた。

「ぐああああ!!」

「やっぱりこうなるんじゃん……」

 あきれ顔の少女に回収され、二人は物置小屋に避難する。その内部は、発明家の工房さながらに改装されていた。壁には用途不明の発明品がいくつも飾られている。

 台風に敗北したMarkIIIの骨組みを分解しながら、少年は髪も拭かずにブツブツと分析を始める。

「やはり既存構造の強化や素材の変更では乗り降りの不安定さに対応できん。抜本的な見直しが必要か……」

「風邪引くよー。もう、バカなことばっかりやって……」

「好きに言え。俺は改造をやめんぞ」

「はいはい知ってますよ」

 台風に逆らう自転車を作る、と言い出してから一日で完成までこぎつけるのは、彼がいままでに積み重ねた改造と発明の技術の賜物だ。

「構想ができた! 俺は諦めん!」

「よくやるね、本当に……」

「つまらんのなら帰れ。別に頼んではいない」

 棘のある言い方だが、それも彼なりの気遣いなのだと少女は知っている。

「あんたの作るモノがつまんないワケないでしょ。お昼ご飯、何がいい?」

「肉」

「野菜炒めね。あ、再挑戦するならちゃんと呼んでね?」

「当たり前だ」

 思い付きを全力で実行しようとする少年を、周りの人々は変わり者だと言って笑う。だが少年は笑われようと構いはしない。自分が抱えた衝動に、他人の意見など関係ない。

 そして、少女もまた他人など関係ない。想像を現実にしていく最中の彼が一番輝いていると、彼女だけが知っているのだから。

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