お題:虚勢
手負いの狼に見えた。けど、擦り傷を我慢してる子供にも見えた。
たぶん、どっちも正解だ。
日が暮れる公園にはカラスの声だけが残響していた。俺は公園の隅でうずくまっている少女にしゃがんで目線を合わせる。
「また喧嘩したのか?」
「……くんなよボケ。触んな」
「はいはい。強がるのも大概にしろ」
頰を掴んで顔を上げさせる。少女は頭に顔を歪めた。
「あーあー、目元が痣になってる」
「うるせぇ。痛くねぇ」
「綺麗な顔してるから、嫉妬されたか。骨は折れてないと思うけど……」
「だから痛くねぇっッてぇ!?」
「その虚勢、お前が思ってるよりバレバレだからな」
青黒くなった目元には涙の通り道が残っていた。不良漫画なんかじゃ流血骨折当たり前のように描かれているが、痛みを痩せ我慢するにも限界がある。
ただでさえ余裕のないこの子に、我慢できるわけがない。
「もうやめろ、なんて言っても聞かないんだよな」
「当たり前だ。あたしは、売られた喧嘩は買って勝つ。そうしないと……また、みじめな時に逆戻りだ」
「そうか」
「もう関わんな。クソくだらねぇ道徳やらで説教されたって、うぜぇだけだ」
「おう。だから止めねぇよ」
そう返すと、彼女は完全に意表をつかれた顔をした。
「正直、俺は喧嘩する意味がわからん。この情報化社会で人を殴って得られるメリットが何一つわからん。だけど、世の中は道理や損得だけで片付けられないコトばっかりだ」
どれだけ正論でも、それだけで人が救われるわけがない。なら、せめて。
「お前が納得するまで喧嘩してりゃいい。そうやって怪我する度に俺が迎えに来てやる」
「余計なお世話だ」
「だろうな。絶対にやめねーけど」
「……帰る」
彼女はよろよろと立ち上がり、歩き出した。これもまた、強がりだろう。
虚勢もまた、心の一部だ。弱みを見せる勇気がないから起こる防衛反応。だが、全てを拒んでるだけじゃ世界は狭いまま。
心を変えられるのは本人だけだ。俺にできることは、こいつを許容して、虚勢を剥がす場所を作ることだと思う。
こいつに何があったのか知らない、単なる昔馴染みの俺にできることなんて、受け入れること以外何もない。
「ちゃんと病院行くぞ。痣が残ったら綺麗な顔が台無しだ」
「……お前は気にしねぇんだろ」
「俺はな。けど、いつか好きな人ができた時に怖がられるかもしれないだろ」
「顔の傷だけで離れてくような奴を好きになることなんて一生ねぇな」
「あっそ。でも行くからな。目になんかあったら心配だろ」
「……わかったよ」
いつか、彼女が虚勢を張らなくなる日が来るまで、俺は俺にできることをしていよう。
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