お題:柔らかい

「んあ゛ー……」

 体育の時間、私は開脚で床にべったりと張り付く男子の姿を見て驚愕した。

「やわらかっ!?」

「え? ああ、うん」

 彼は誇るわけでもなく、さもありなんといった調子で柔軟を続ける。

「え、男子って開脚するとテディベアみたいになるモンじゃないの?」

「すごい偏見してるなー……別に柔らかい男がいたっていいだろ」

「いやまあそうだけど……体操部なの?」

「帰宅部だよー」

 謎が深まる。

「生まれつき柔らかいの?」

「小学校の時は開脚できなかったなー」

 ますます謎が深まる。

「突然変異なの?」

「俺のことを何だと思ってんの? ……開脚して柔軟する時さー、腰を後ろに逃がすとぐーって体が伸びるんだよね。それを発見したときに面白くなって、続けてたら仕上がってた」

「へー……」

 気になったので、それとなく真似をしてみる。座って、脚を開いて、腰を……

「ん゛っ」

「え、嘘でしょ。テディベアだ」

「んぎぎぎぎぎ無理ぃ」

 運動不足が祟ったのか、自分でも信じがたいほど硬い。凍らせた輪ゴムよりも伸縮性がない。

「……まあ、継続してやってればよくなるよ。たぶん」

「うん……」

 高校生ながらに肉体の衰えを自覚した午前だった。





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