お題:体温

「頭くらくらしてきた……」

 ずいぶんと涼しげな服装だというのに汗だくな彼女は、溶けたアイスみたいな声でそう呟いた。

「夏日ですからね」

「マジかよおのれ気象庁……」

「八つ当たりも甚だしいですね」

 聞こえていないとでもいわんばかりにふらふらと歩く彼女は、「あ」と一声発して突然走り出した。

「どうしたんですか?」

「あれ!」

 指差した先にあったのは、アイスの自販機だ。

「冷やいもの売ってるなら箱自体も冷たいはずぅぁっちいい!?」

「そりゃ金属は熱くなるでしょう」

「こ、こんなの罠だぁ。トラバサミよりたちがわるい……」

 あまりに間抜けだが、よほどショックだったのかふらつきが増した彼女の肩を支える。

「しっかりしてください。ほら、何か買えばいいじゃないですか。いつものグレープのやつありますよ」

「……手が涼しい」

「はい?」

 僕の手を掴むと、彼女はそこに頬擦りし始めた。きめ細やかな肌の温もりに僕は狼狽する他ない。

「なっ、何を……!?」

「キミの手は涼しいねぇ。涼しいのにあったかいから、これがあればオールシーズン大丈夫だねぇ」

「血迷ったこと言ってないで離してください! というか体温高っ!? 水飲んでください早く!!」

 結局、彼女の『熱い』原因は軽度の脱水で熱がこもっていたことだったらしい。

 だが。

「やっぱり涼しい。平均体温低め? もしや雪女の家系?」

「違います」

 なんらかの味を占めた彼女に文字通り「手を貸す」ようになってしまった。

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