お題:妖精

 家に帰ると、俺のPS4が段ボール箱になってました。

 マジックペンで雑に『ぴーえすふぉー』と書かれた段ボールを前に立ち尽くしていると、ガタガタと箱が動いた。

「…………」

 俺は怪訝な顔のまま、箱を持ち上げた。

「あ」

 中に入っていた妹は『ヤバイ』という顔で箱を取り返すと、また被ってゲーム機に成りすまし始めた。

「何やってんだお前」

「おまえではありません。私はゲームの妖精です」

「はぁ……んじゃ、用件は何でごぜーましょうか」

「おっほん。兄様……じゃなくてあなたは、こうして土曜日のお昼間からお出かけしていますね」

「自動車の教習所だけどな」

「お疲れ様でした。……ではなく、こうして帰って来たあなたはゲームをしようとしていますね?」

「RPGの続きしたい」

「それを咎めにきました」

 理不尽な、という言葉をいったん飲み込み、理由を訊くことにした。

「まず、あなたはほぼ毎日ゲームをしています」

「おう」

「目に悪いです」

「おう」

「妹と遊びなさい」

「そこだけだろお前」

「ちっ、違います! 私は決して寂しいとかでは……」

 見るからに慌て始めた自称妖精はあれこれと言い訳を並び立てる。まあ、結局のところはその言い訳全てが本音なわけだが。

「……わかった。ゲームの妖精さんがそこまで言うなら今日はゲームやめとくわ」

「! そうでしょうそうでしょう。さすがは兄様です」

「さて、じゃあ遊びに行くかね。妖精さんよ、妹がどこにいるか知らないか?」

「呼んできましょう」

 段ボールはのっそのっそと動いて部屋を出ると、すぐに妹がひょこりと顔を見せた。

「お呼びでしょうか」

「遊びに行くぞ」

「水族館がいいです」

 いじらしい妖精の仕業で、俺は二人分の電車賃とサメのぬいぐるみ代を支払う破目になった。

「えへへ、兄様大好き」

「現金なヤツめ」

 何のためらいもなく甘えてくるこの笑顔が見られるなら、安いものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る