お題:宿題
「わからん」
耳にペンを挟み、少女は唸って後ろに倒れ込んだ。
「何故に数字とアルファベットが並ぶ? そもそもなんでaなんだ。いままではxとyだったのに何故……」
「そこを考え出すとキリがないぞ」
「うるさいぞ理系。わたしはいま、長らく放置されてきた数式に使用されるアルファベットの意義について脳内議論を遂行している。邪魔をするな」
「宿題教えろって詰め寄ってきたのはお前だよな?」
「……答えだけ教え「断る」
不服そうな顔にチョップを入れ、少年は教科書を開き直す。
「そんなに量もないんだからとっとと終わらせればいいだろ。こんな初歩的な問題」
「設問の難度が問題なのではない。わたしは文系として数式そのものに抱いた疑問を看過できないのだよ」
「看過しろ。もしくは数学ザコだって自白しろ」
「ちーがーいーまーすー」
このままでは終わらないと察した少年はため息混じりに懇願するように呟いた。
「頼むってマジで。終わらせたらなんか奢ってやるから」
「ご飯に頓着しない主義なんだ」
「あー面倒くせぇなお前。なんでも言うこと聞いてやるから早く終わらせろってば」
ぴくり、眉が動く。
「なんでもと言ったな?」
「……撤回する」
「男に二言なしだろ?」
「ジェンダー云々!」
「やかましいぞ理系。文系にレスバを挑むかね? 正論学論詭弁ハッタリなんでもござれだぞ!」
高笑いしながら少女は凄まじい速度で問題を解いていく。集中を増す瞳には、獲物を前にした獣のように爛々とした光が宿っていた。少年の顔が引き攣る。
「お前、何する気だ……?」
「ナニだろうねぇ。くふふふふ」
「ひッ」
その後、何があったかは二人とも語らない。
ただ、少女の顔はとても晴々としていたそうだ。
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