お題:惑星
朝六時、短い電子音が携帯端末から鳴った。僕にとってはどんな目覚まし時計より目が醒める福音の鐘だ。
『こんにちは。なんて、そっちはいま何時なんだろうね。こうやって惑星間メールができるようになってしばらく経つけど、そっちの星はどう?』
科学の発展は止まらない。かつて地球上を網目のように覆ったネットワークは、いまや惑星間を飛び越えるほどの規模に進化している。まあ、物理的な距離や複雑な周回軌道のせいで電波の受信にかなりのラグがあるのは玉に瑕だが。
『でも感慨深いなぁ。こうやってメールし合うのも、今回で終わりなんだね』
生意気なくせに寂しがりな後輩だった。そのくせ優秀なもんだからタチが悪い。あっという間に選抜を合格して惑星探査任務へ飛び立ってしまったんだから。
あんなのは流星みたいなもんだ。目が眩むぐらい輝いてて、手を伸ばすのも億劫になるスピードで駆け抜けてしまう。そんなのが僕みたいな星屑にもなれない有象無象にこだわってくるから、困るんだ。
『ね、先輩。当たり前ですけど、そっちとこっちじゃ時間の流れが違うんですって。私は若いままですけど、先輩はもうおじさんになっちゃってますかね』
その通りだよ。もう三十路も手前だ。
『でもご安心くださいな。先輩がビール腹のハゲ親父になっちゃわない限りはワンチャンありますからね。ふふん』
相変わらず調子のいい奴だ。僕がいまでも学生時代と変わってないと信じ切ってる。
だから、裏切れない。こんなに単純でバカな男もそうはいないだろうな。
『だから先輩。お迎え、待ってます』
僕は今日、この星を飛び立つ。
向かう先は14光年先。僕は技術者としてあの星へ向かう。ロケットのエンジンが壊れて、戻ってこれなくなったあいつの待つ星へ。
端末に文字を打ち込む。
『任せろ』
このメールと僕の設計したロケットのどっちがあの星へたどり着くのだろう。
まあ、どちらにしても些末な問題だ。
10年待って、1年待たせた。14光年程度なら、あっという間だ。
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